注意欠陥・多動性障害(ADHD)のある子どもへの関わり方は、知識として理解していても、実際の場面では悩みが尽きないという支援者や保護者が少なくありません。
たとえば、
- 「座って静かに話を聞く」ことに、本人が苦しさを感じている
- その場しのぎの対応でいいのか、迷いながら試行錯誤している
- 知識を得ても、感情面でうまくいかないことがある
- 環境を変えることが、思いがけず大きな効果につながることもある
- 対応法は分かっていても、期待や比較から苛立ちが抜けきらない
- 一つの方法がうまくいっても、次の場面ではまた新しい悩みが生まれる
といった場面です。
ADHDへの対応は、知識を得ることと、それを実践し続けることの間に、大きな距離があります。
私は協会の事務局長として、延べ5万人以上の保護者・支援者が学ぶ場の運営に関わる中で、ADHDのある子どもへの関わり方は、正しい知識を持つことと同じくらい、その知識を実践する中で生まれる感情とどう向き合うかが大切だと感じています。
当協会が主催している意見交換会に参加された方の事前アンケートを見ても、ADHDのある子どもへの関わり方に悩む声は、多く見られました。
この記事では、一般社団法人 人間力認定協会が開催する意見交換会に寄せられた721名の自由記述をもとに、ADHDの子への関わり方で支援者が悩みやすいことについて整理していきます。
>ASDの子への支援で大切にしたい基本視点|支援者学習シリーズ
目次
本記事で紹介している一次情報について
本記事では、児童発達支援士の意見交換会に参加された方から寄せられた自由記述をもとにしています。
| 項目 | 内容 |
| 実施主体 | 一般社団法人 人間力認定協会 |
| 対象 | 児童発達支援士 意見交換会の参加者 |
| 有効回答数 | 721名 |
| データ取得期間 | 2021年7月~2026年5月 |
| 回答形式 | 自由記述 |
| 主な回答者属性 | 保護者、保育士、教員、療育施設スタッフ、支援員、祖父母など |
| 質問1 | 児童発達支援士を受講した理由は? |
| 質問2 | さらに深めたい知識はありますか? |
| 質問3 | 協会にどんな活動を期待しますか? |
| 質問4 | 発達障害児支援に関するエピソード |
| 分析方法 | 自由記述内で多く語られた言葉や文脈をもとに整理 |
今回の記事では、主にADHD(注意欠陥・多動性障害)のある子どもへの関わり方に関する自由記述を中心に扱います。
自由記述を見ると、ADHDのある子どもへの関わり方として、次のような悩みが見られました。
- 「座って静かに話を聞く」ことの難しさに、どう向き合うか悩んでいる
- その場しのぎの対応でいいのか、迷いながら試行錯誤している
- 知識を得ても、感情面でうまくいかないことがある
- 環境を変えることが、思いがけず大きな効果につながることもある
これらの声からは、ADHDへの対応は、正しい知識を得ることと、それを日々実践し続けることの間に、大きな距離があることが分かります。
ADHDの子への関わり方で悩みやすい4つのこと

自由記述を整理すると、ADHDのある子どもへの関わり方で悩みやすいことは、大きく4つに分けられます。
ここからは、それぞれについて、実際の声も交えながら見ていきます。
① 「座って静かに話を聞く」ことの難しさに、どう向き合うか
集団の中で「座って静かに話を聞く」ことを求められる場面は、ADHDのある子どもにとって、大きな負担になることがあります。
実際の自由記述にも、そうした難しさに関する声が見られました。
現在、幼稚園の年中の子どもが、幼稚園にてADHDと重なる部分が見られるとの指摘を受けています。子どもが、集団で一斉に先生の話を聞く際に、”座って静かに話を聞く”ということに苦しさを覚えているようで、小学生になり、授業を受ける姿勢が維持できるかが心配です。
この声からは、就学前の段階から、集団での着席や傾聴という基本的な行動そのものが、その子にとって大きな困難を伴うことがあると分かります。
- 「座って話を聞く」という一見当たり前の行動に、大きな困難を感じる子どもがいる
- 就学を控える時期に、保護者の不安が高まりやすい
- 困難の背景には、本人なりの苦しさがあることを理解する
- 「できない」ことを叱るより、その子に合った工夫を考える視点が必要
「座って話を聞く」という行動の難しさを、努力不足ではなく特性として理解することが、対応を考える出発点になります。
>「落ち着きがない」は性格?発達特性?幼稚園・保育園の集団生活で見えてくる原因とあたたかい関わり方
② その場しのぎの対応でいいのか、迷いながら試行錯誤する
支援者は、目の前の子どもに対して、その場でできる工夫を重ねながらも、その方法が本当に適切なのか、迷いを抱えることがあります。
実際の自由記述にも、そうした迷いに関する声が見られました。
働いている中で、ASDやADHDの診断を受けている子も多く、その子によって対応も様々です。最初は人形で気をひきながらトイレに誘導したりしていましたが、こんな一時凌ぎの方法でいいのかな?と思うようになり、その子に合った対応をしたいなと思ったのがキッカケでした。
この声からは、支援者が日々の現場で、限られた知識の中で試行錯誤を重ねながらも、より適切な対応を模索し続けている様子が伝わってきます。
- その場しのぎの工夫にも、一定の効果があることは事実である
- しかし、それだけでよいのかという迷いを抱く支援者は少なくない
- 「その子に合った対応をしたい」という思いが、学びへの動機になっている
- 迷いながらも試行錯誤を続ける姿勢そのものが、支援者としての誠実さの表れ
その場しのぎの対応に迷いを感じることは、支援者としての成長の途中にある、自然なプロセスの一部です。
③ 知識を得ても、感情面でうまくいかないことがある
対応方法についての知識を得ても、実際の場面では、感情がついていかないことがあります。
実際の自由記述にも、そうした率直な声が見られました。
我が子がADHDと診断され、どのような対応をしていくべきか悩み、勉強できる場を探していました。対応法などはわかりましたが、親として期待をしてしまう事や周りと比べてしまうことなどが抜けきらず、苛立ちが抑えられないことがありました。
この声からは、知識として「どう対応すればよいか」が分かっていても、期待や比較といった感情が、実際の関わりに影響を与え続けることがあると分かります。
- 知識と感情は、必ずしも一致するとは限らない
- 「分かっているのにできない」という葛藤は、多くの保護者・支援者に共通する
- 期待や比較の気持ちを完全になくすことは難しいが、気づくことはできる
- 自分の感情に気づくこと自体が、次の対応を考える手がかりになる
知識を得ることと、それを実践することの間にあるギャップを認識することが、無理のない向き合い方につながります。
>小学校高学年で増える対人トラブル|ASD・ADHDの“見えにくい困りごと”と友達関係の変化
④ 環境を変えることが、思いがけず大きな効果につながることもある
対応方法を工夫するだけでなく、環境そのものを変えることが、大きな効果につながることがあります。
実際の自由記述にも、そうした経験に関する声が見られました。
高2になるADHD、双極性障害の一人息子がいます。小さい頃、過敏が多く問題行動が多いため、なかなか参加できずにいましたが、友人にガイドをしてもらい、小さい頃よく行った森を案内してもらいました。自然の中は日常を忘れ、過敏になる物がなく、親子の心のリセットや癒しになったりします。親子関係もよくなります。
この声からは、対応方法を工夫するだけでなく、刺激の少ない自然の中といった環境そのものを変えることが、本人にとっても保護者にとっても、大きな癒しになることがあると分かります。
- 環境を変えることは、対応方法の工夫と同じくらい効果的な場合がある
- 刺激の少ない環境が、心のリセットにつながることがある
- 環境の変化は、本人だけでなく保護者にとっても癒しになりうる
- こうした場に安心して参加できる仕組みが、もっと広がることが望まれている
環境そのものを見直す視点は、対応方法の工夫だけでは見えてこない、新たな可能性を開いてくれます。
悩み続けることは、支援者としての誠実さの表れ
ADHDのある子どもへの関わり方に悩み続けることは、決して支援者としての力不足を意味するものではありません。
自由記述全体を通して見えてくるのは、多くの支援者が、悩みながらも、その子にとってより良い関わり方を模索し続けているという姿です。
- 悩みが尽きないことは、それだけ真剣に向き合っている証でもある
- 「これで完璧」という状態を目指す必要はない
- 試行錯誤を続けること自体が、支援の質を少しずつ高めていく
- 悩みを一人で抱え込まず、他の支援者と共有することも大切
悩み続ける姿勢そのものを、支援者としての誠実さとして受け止めることが、無理のない支援の継続につながります。
>注意欠如多動症(ADHD)治療薬の種類と特徴|作用・副作用・併用パターンを一次情報から整理
ADHDの子への関わり方で悩みやすいことの整理
| 悩みの傾向 | 大切にしたい視点 |
| 「座って静かに話を聞く」ことの難しさに、どう向き合うか | 努力不足ではなく特性として理解する |
| その場しのぎの対応でいいのか、迷いながら試行錯誤する | 迷いながらの試行錯誤を、成長の一部と捉える |
| 知識を得ても、感情面でうまくいかないことがある | 知識と感情のギャップに気づく |
| 環境を変えることが、思いがけず大きな効果につながることもある | 対応方法だけでなく、環境の見直しも視野に入れる |
家庭での関わりを整えるために役立つ学び
ADHDのある子どもへの関わり方は、発達特性だけでなく、環境・関わり方・本人の感じ方や経験など、さまざまな要因が複雑に関係しています。
そのため、「どう関わればいいか分からない」と感じたときは、保護者や支援者だけで抱え込まず、発達支援に関する知識や考え方を少しずつ学んでいくことも大切です。
実際には、
- 発達障害や感覚特性に関する書籍を読む
- 療育施設や支援機関に相談する
- 保護者会や経験者の声を参考にする
- 専門資格や研修で体系的に学ぶ
など、さまざまな学び方があります。
大切なのは、「子どもを無理に変える方法」を探すことではなく、子どもの特性や困りごとの背景を理解し、少しでも悩みに向き合いやすくなる視点を持つことです。
当協会が認定する「児童発達支援士」でも、
- 発達特性の理解
- 行動の背景を読み解く視点
- 環境調整の基本
- 保護者支援やコミュニケーション
- 家庭や支援現場で活かしやすい支援の考え方
などを体系的に学ぶことができます。
「完璧な支援」を目指す必要はありません。
まずは、”なぜこの行動が起きるのか”を知ることが、ADHDのある子どもへの関わり方を穏やかに変えていく第一歩になります。
Q&A|ADHDの子への関わり方で支援者が悩みやすいことに関するよくある質問
Q1:「座って話を聞けない」子には、どう対応すればよいですか?
叱って座らせようとするより、短い時間で区切る、体を動かす機会を挟むなど、その子に合った工夫を試してみることが助けになります。特性として理解する姿勢が土台になります。
Q2:その場しのぎの対応でも、続けてよいのでしょうか?
一時的な工夫にも一定の効果はあります。ただし、迷いを感じたときは、より体系的な知識を学ぶことで、対応の幅を広げていくことができます。
Q3:知識はあるのに、感情的になってしまいます。どうすればよいですか?
知識と感情が一致しないことは、多くの保護者・支援者に共通する悩みです。まずは自分の感情に気づくことから始め、少しずつ向き合っていく姿勢が大切です。
Q4:環境を変えることは、どんな効果がありますか?
刺激の少ない環境で過ごすことが、本人にとっても保護者にとっても、心のリセットや癒しにつながることがあります。対応方法だけでなく、環境そのものの見直しも検討してみてください。
Q5:悩みが尽きないとき、どう向き合えばよいですか?
悩み続けることは、それだけ真剣に子どもと向き合っている証です。一人で抱え込まず、他の支援者や保護者と悩みを共有することも大切にしてください。
まとめ|悩みながらの試行錯誤が、支援の質を育てる
当協会が主催している意見交換会に参加された方の事前アンケートを見ると、ADHDのある子どもへの関わり方に、多くの保護者・支援者が悩んでいることが分かりました。
自由記述では、
- 「座って静かに話を聞く」ことの難しさに、どう向き合うか
- その場しのぎの対応でいいのか、迷いながら試行錯誤する
- 知識を得ても、感情面でうまくいかないことがある
- 環境を変えることが、思いがけず大きな効果につながることもある
といった声が見られました。
ADHDへの対応は、知識を得ることと、それを実践し続けることの間に、大きな距離があります。
悩み続けることを支援者としての未熟さと捉えるのではなく、真剣に向き合っている証として受け止め、試行錯誤を重ねていくことが、支援の質を少しずつ育てていきます。
【注意事項】
この記事で紹介している内容は、一般社団法人 人間力認定協会が開催する意見交換会に参加された保護者・支援者の実際の声をもとにまとめています。子どもの特性や発達の状況、家庭環境、支援との相性、感じ方には個人差があり、すべての子どもに同じ変化や結果が見られるわけではありません。支援方法や対応について判断する際は、必要に応じて医師・専門家・支援機関などと相談しながら進めてください。この記事は、保護者や支援者が理解や選択の参考にするための情報としてご活用ください。


