放課後等デイサービスや学校、あるいは毎日のご家庭の中で過ごしていると、以下のような姿を見せるお子さんに出会うことがあります。
- お友達を突然叩いてしまう(他害)
- 目の前にある物を激しく投げてしまう
- 部屋中に響き渡るような大声を出したり、叫んだりする
- 一度スイッチが入ると、手が付けられないほどのパニックを起こしてしまう
周囲の大人はどうしても、その激しい姿を前にすると「どうやってこの行動を止めようか」「どう言えば静かになるか」と、行動をコントロールすることに意識が向きがちになります。
もちろん、本人や周囲の安全を守るために、その場の行動を制止することは必要不可欠です。
しかし、支援の現場で多くの子どもたちと向き合ってきた私は、大人が「行動そのもの」だけを見つめていると、その子が内側で本当に必要としているメッセージを見失ってしまうことがあると強く感じています。
今回は、周囲から「大変な子」「わがままな子」と言われてしまいがちな、行動が激しい子どもたちの心の裏側に迫りながら、彼らにとって真に「安心できる居場所」をどのように作っていくべきか、児童発達支援管理責任者(児発管)の視点から詳しく解説します。
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目次
この記事でわかること
- 「わがまま・甘え」と誤解されやすい、激しい行動の本当の理由(脳のキャパシティ)
- 行動を力づくで止める前に、大人が知っておくべき「行動の裏側にある目的」
- 刺激を遮断し、脳のブレーカーを回復させる「一人になれる場所(静養スペース)」の役割
- どんな高度な支援ツール(ABA・視覚支援など)よりも先に整えるべき「関係性の土台」
- 子どもにとっての本当の居場所は、物理的な部屋ではなく「特定の大人」であるという事実
- うまくいかない日々に悩む支援者や保護者が、一歩前に進むための心の持ち方
その行動、本当に「わがまま」でしょうか?

行動が激しい子どもたちについて話をすると、周囲から「わがままなんじゃないですか?」「大人が甘やかしているからでは?」「ダメなことはダメと厳しく教えないと、社会に出て本人が困りますよね」という厳しい声をいただくことがよくあります。
確かに、ルールを教えることは大切ですし、他者を傷つける行為を容認して良いわけではありません。しかし、彼らの脳と心のメカニズムを紐解くと、「わがまま」という言葉だけでは決して片付けられない構造が見えてきます。
① 激しい行動は「脳の限界(キャパシティオーバー)」のサイン
急に大声を出す、パニックになる、物を投げるといった激しい行動の多くは、本人のわがままではなく、脳に過剰な負荷がかかって「ブレーカーが落ちてしまった状態」です。
- 定型発達のお子さんの場合:
「嫌だな」「疲れたな」という不快感を、言葉や適度な態度で大人に伝えて発散することができます。 - 発達に特性のあるお子さんの場合:
自分のイライラや体調不良、周囲の騒音、見通しのなさ(予測エラー)による不安を上手に処理・言語化できず、気づいたときには心の中に限界までストレスが溜まっています。
② 「コントロールしようとする支援」の限界
大人が表面的な行動だけを捉えて厳しく叱ったり、力づくで抑え込もうとしたりすると、子どもにとっては以下のような対比として脳に記憶されてしまいます。
- 力で抑え込む対応:
子どもは「自分の苦しさを分かってもらえなかった」「力で支配された」と感じ、大人への不信感を強め、さらに激しい行動で抵抗するようになります。 - 居場所を保障する対応:
「この環境やこの大人の前なら、自分は攻撃されず、安全でいられる」と感じることで、脳の警戒モードが解け、自ら落ち着きを取り戻す力が育ちます。
激しい行動とは、大人を困らせるための嫌がらせではなく、「もうこれ以上、自分一人の力では耐えられない!助けて!」という、彼らの不器用で切実なSOSの表明なのです。
実践1|環境を整えることも支援のひとつ「一人になれる場所」の役割
パニックや他害が起きやすい環境の多くは、視覚的な刺激(たくさんのおもちゃや掲示物)や、聴覚的な刺激(多くの子どもの声やBGM)で溢れかえっています。脳の音量調節つまみが壊れている状態のお子さんにとって、こうした賑やかな環境に居続けること自体が、心身を削る猛烈なストレスになります。
そこで、現場やご家庭で真っ先に取り入れたいのが、「意図的に刺激を遮断できる、一人になれる場所」を切り出してあげることです。
- パーテーションやカーテンで仕切る:
視界に入る情報をごっそり減らし、視覚的なリセットを促します。 - 静かで落ち着ける専用コーナー(お部屋の隅など)を作る:
ざわざわした集団の波から物理的に距離を置ける避難所を用意します。 - お気に入りのクッションやマットを置く:
体の感覚(固有覚)を落ち着かせ、安心感を高めるグッズを配置します。
この場所は、決して悪いことをした子どもを閉じ込める「お仕置き部屋」ではありません。 むしろ逆です。「ここに入れば、誰にも邪魔されず、安心して心を休めていいんだよ」という、子どもを守るための「心のチャージステーション」です。
脳のブレーカーが落ちてパニックになっているときは、大人が言葉でいくら「落ち着きなさい」と説得しても、興奮した脳には一切届きません。まずは静かな空間へと誘導し、刺激をシャットアウトして、本人の脳が自律的に落ち着いていくのを「待つ環境」を作ることが、最も確実で優しいアプローチになります。
実践2|どんなテクニックよりも大切な“関係性づくり”
子どもが激しい行動を繰り返しているとき、私たち支援者や保護者は、焦るあまり「方法論」の迷路に迷い込んでしまいがちです。
- どんなABA(応用行動分析)の理論を使えば、この行動を消去できるだろうか。
- どんなスケジュール表や視覚支援を使えば、大人しく従うだろうか。
- どんなペナルティやルールを作れば、言うことを聞くだろうか。
もちろん、これらの具体的な支援技術や視覚支援は、子どもたちの生活を助けるためにとても有効な道具です。しかし、どれほど素晴らしい最新の支援ツールを目の前に準備したとしても、その前段階にあるいちばん大切な土台が抜けていれば、どんな支援も子どもの心には1ミリも届きません。
その土台とは、「この人と一緒なら、僕は僕のままで大丈夫」と思ってもらえる、絶対的な信頼関係です。
- 信頼関係がない状態での支援:
どれだけ正しい指示や便利な絵カードを出されても、子どもにとっては「大人が自分をコントロールしようと仕掛けてきている道具」に見えてしまい、反発や拒絶を生みます。 - 信頼関係ができている状態での支援:
「この先生(親)は、自分が暴れても怒っても、絶対に見捨てずに守ってくれる」という安心感があるからこそ、子どもは苦手な課題にもちょっと挑戦してみようと思えたり、失敗して崩れそうになっても、大人の手を借りて打たれ強く立ち直ったりすることができるようになります。
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実践3|安心できる大人が、子どもにとっての“安心できる居場所”になる
多くの子どもたちと現場で泥臭く関わり続けてきて、私が最後に行き着いた一つの答えがあります。
それは、子どもたちにとっての本当に安心できる居場所とは、どこかの立派な施設でも、特別にリフォームされた防音の部屋でも、お気に入りの椅子でもない、ということです。
子どもにとっての本当の居場所とは、「この人がいる場所」という、大人そのものの存在に他なりません。
- 自分の話を、否定せずに最後までじっと聞いてくれる大人がいる。
- パニックになって暴れてしまっても、感情的に怒鳴り返さず、静かに隣で守ってくれる大人がいる。
- 自分が本当に困ったときに、いつでも味方になって助けてくれる大人がいる。
「自分のすべてを知って、丸ごと受け止めてくれる大人が、いつもあそこにいてくれる」 その確信こそが、子どもたちの心の中に小さな余裕(スペース)を生み出し、結果として他のお友達を叩いたり、物を投げたりしなくても穏やかに過ごせるという、行動の安定へとじわじわつながっていくのです。
支援方法を模索することに一生懸命になりすぎるのを、一度手放してみませんか。 まずは「目の前の子どもと、今日どれだけ笑顔で通じ合えたか」「安心して甘えてもらえる関係になれているか」を何より大切にすること。それこそが、激しい行動に苦しむ子どもたちの世界を救う、最も強力な第一歩になります。
“安心できる居場所”づくりがうまくいきやすかった支援の共通点
| 大切にしていた視点 | 子どもに起こりやすい変化 |
| 行動ではなく背景にあるSOSを見ていた | 「分かってもらえた」という安心感につながりやすかった |
| 一人になれる場所を用意していた | パニックや興奮を自分で整えやすくなっていた |
| 行動を頭ごなしに否定しなかった | 大人への警戒心が減り関係づくりにつながっていた |
| 信頼関係を支援の土台にしていた | 苦手なことにも挑戦しやすくなっていた |
| 「この子の味方でいる」という姿勢を示していた | 安心感が増し行動の安定につながりやすかった |
さいごに|表面的なコントロールを手放し、信頼でつながる支援の本質
正直にお伝えすると、支援者である私たちも、毎日の療育や子育ての中で激しい他害やパニックに直面すれば、激しく悩みます。 どうしたらいいのか分からなくて、暗闇を歩いているような気持ちになる日もあります。 良かれと思って必死に考えて準備した支援が、何の効果も示さず、目の前で木っ端微塵に打ち砕かれることだって、一度や二度ではありません。
「この子のために、自分は何かできているのだろうか」と、夜一人で自己嫌悪に陥り、涙を流している保護者の方やスタッフの姿も、私はたくさん見てきました。
けれど、どうか諦めないでください。 うまくいかない日があったとしても、あなたが「どうしてこの子はこんなに苦しんでいるんだろう」と、行動の裏側にある心の涙を見つめようと試行錯誤しているその姿そのものが、すでに子どもにとってはかけがえのない救いになっています。
すぐには結果が出ないかもしれません。 それでも、目の前のお子さんのSOSを静かに受け止め、刺激を減らす工夫を重ね、「あなたが変わらなくても、私はあなたの味方だよ」という変わらない佇まい(安全基地)を見せ続けること。
その温かい大人の背中に包まれながら、子どもたちは少しずつ心のエネルギーを蓄え、いつの日か必ず、激しい行動という鎧を脱ぎ捨てて、穏やかな輝くような笑顔を見せてくれるようになります。 その日を信じて、周囲の大人がチームとなり、一人で抱え込まずに、一歩ずつ共に歩んでいきましょう。
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Q&A|よくある質問
Q1. 子どもが暴れたり物を投げたりしたとき、「一人になれる場所(静かなコーナー)」に行かせようとしても、興奮してその場所に行くこと自体を激しく拒否してしまいます。
A. 興奮しているパニックの最中に無理に移動させようとすると、子どもは「無理やり排除された、お仕置きされる」と感じて余計に大暴れしてしまいます。移動させるタイミングと誘い方を見直してみましょう。 大切なのは、完全にブレーカーが落ちて暴れ出す前段階の「ウズウズ、イライラし始めたサイン(声が大きくなる、貧乏ゆすりをする等)」をキャッチし、「ちょっとあっちの静かなお部屋で、先生とゴロゴロ休憩しに行こうか」と優しく声をかけて、先回りして誘導することです。もし、すでに大パニックになって動かせない場合は、無理に移動させるのは諦め、その場にある危険な物(尖ったものや割れ物)を大人が素早く遠ざけ、周囲のお友達を避難させて「その場を簡易的な安全地帯にする」対応に切り替えてください。本人が落ち着いたあとに、「さっきはしんどかったね。次はあっちの静かな場所で休むとラクになるよ」と、本人が穏やかな状態のときに場所の役割をインプットし直すことが成功の鍵です。
Q2. 信頼関係を作るために「丸ごと受け止める」ことは大切だと思いますが、お友達を叩いたときまで「そっかそっか」と受け止めていたら、何が悪いことなのか学習できないのではないでしょうか?
A. 「子どもの苦しい感情」は100%丸ごと受け止めますが、「他者を傷つける不適切な行動」は淡々と、1ミリも妥協せずに制止します。ここを明確に区別することがプロの支援です。 お友達を叩こうとした瞬間は、大人が毅然と、しかし感情的に怒鳴るのではなく、静かな力で本人の手をホールド(制止)し、「お友達を叩くのはダメだよ」と行動のルールを伝えます。その直後に、「おもちゃを使いたくて悔しかったんだよね」「思い通りにならなくて悲しかったんだね」と、行動の引き金になった内側の“感情”に対して徹底的に共感し、受け止めてあげます。「大人は自分の行動は止めるけれど、自分の味方でいてくれて、苦しい気持ちは全部わかってくれる」と子どもが実感できたとき、初めて大人の「叩いてはダメ」という教え(ルール)が、子どもの心の中に素直に染み込んでいくようになります。
Q3. 家庭で母親である私に対してだけ、他害(噛みつく、髪を引っ張る)が集中します。私のことを「安心できる居場所」と思ってくれているからこその甘えなのでしょうか?
A. はい、お母さんに対して100%の絶対的な信頼と安心感(甘え)を抱いているからこその行動です。ただし、お母さんの心身が壊れてしまっては元も子もありません。家庭内での物理的な安全対策をすぐに整えてください。 外(学校やデイサービス)で必死に特性による生きづらさと戦い、脳のエネルギーを極限まで使い果たしてきたお子さんは、世界でいちばん安全で、絶対に自分を見捨てないと分かっている「お母さん」の前に来た瞬間に、張り詰めていた緊張の糸が切れて大爆発を起こします。これはお母さんの育て方が悪いのではなく、最高の安全基地として機能している証拠です。 しかし、お母さんが生傷を負いながら耐え続ける必要は全くありません。噛みつきそうな気配を感じたら、すぐに厚手のクッションを間に挟む、本人が落ち着くまでドアを1枚隔てた別の部屋でお母さん自身の身の安全を数分間確保する、といった「お母さんを守る環境調整」を徹底してください。「大好きなお母さんを傷つけずに済んだ」という環境を作ることも、巡り巡ってお子さん自身の自己嫌悪を防ぎ、行動の安定へとつながっていきます。
【注意事項】
本記事は、児童発達支援管理責任者、心理カウンセラー、言語聴覚士をはじめとする専門家個人の知見や経験、学術的背景に基づいて執筆・監修されたものです。子どもの特性や発達の状況、支援との相性には大きな個人差があり、すべての子どもに同様の効果や変化を保証するものではありません。また、本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の診断や医療行為、個別の療育指導に代わるものではありません。実際に支援方法や対応を判断される際は、必要に応じてお子様を普段から知る主治医や専門家、支援機関などにご相談の上、ご自身の判断のもとで参考情報としてご活用いただきますようお願いいたします。



