私は放課後等デイサービスで、児童発達支援管理責任者として勤務しています。日々、発達障害や強度行動障害のある子どもたちと関わる中で、「受容的な関わり」の大切さを強く感じています。
強度行動障がい児の支援について考える中で、私はある一冊の本と出会いました。
そこには、「問題行動を止める」のではなく、「なぜその行動が起きているのかを理解する」という視点や、「まずは子どもの気持ちを受け入れることの大切さ」が書かれており、私は大きな感銘を受けました。それまでの私は、「どうすれば行動を改善できるか」という視点で支援を考えることが多くありました。
しかし、その本をきっかけに、「子どもを変える前に、まず安心できる環境を整えることが大切なのではないか」と考えるようになりました。また、問題となる行動だけを見るのではなく、その背景にある不安や困り感、そして子ども自身の気持ちをまず受け止めることの重要性を強く意識するようになりました。
今までの支援への捉え方が大きく変わり、現在は「安心できる関わり」を土台にした受容的療育を大切にしながら、日々子どもたちと向き合っています。
強度行動障害のある子どもたちは、「困った子」として見られてしまうことが多いです。しかし実際には、本人なりの不安や困り感、伝えにくさを抱えていることがほとんどです。
今回は、現場で大切にしている「受容的療育」について、実際の支援視点も交えながらお話したいと思います。
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目次
この記事でわかること
- 強度行動障害の背景にある「不安」や「伝わりにくさ」
- 受容的療育が大切にしている支援の考え方
- 視覚支援や構造化が有効とされる理由
- 安心感を重視した具体的な支援方法
強度行動障害とは
強度行動障害とは、自傷・他害・強いこだわり・パニックなどの行動が日常生活に大きな影響を及ぼし、継続的な支援が必要となる状態を指します。
強度行動障害のある子どもを支える7つの支援方法

1.強度行動障がい児に必要なのは「指導」より「安心感」
強度行動障害のある子どもたちは、大声を出す、物を投げる、自傷、他害、パニックになる、癇癪をおこすなど、周囲が対応に困る行動を見せることがあります。
支援現場では、その行動を止めようと必死になる場面も少なくありません。
しかし、実際に関わっていると感じるのは、「なぜその行動が起きているのか」を理解する前に、行動だけを抑えようとしてしまうと、かえって不安定さが強くなってしまうことがあるということです。
- 強い口調で注意される
- 急に予定が変わる
- 何をすればいいのかわからない
- 自分の気持ちをうまく伝えられない
そうした 《不安》 や 《わからなさ》 が積み重なった結果として、行動として表れている場合が多くあると思います。もちろん、安全を守るために止めなければならない場面はあります。
ですが、支援の中心が「注意」や「指導」だけになってしまうと、子ども自身も「また怒られるかもしれない」という緊張の中で過ごすことになります。
そのため、私たち支援者に必要なのは、「行動を止めること」だけではなく、まず子どもが安心して過ごせる環境を整える視点なのではないかということです。
「安心できる場所」だと感じられることで、少しずつ周囲を見る余裕が生まれ、言葉を受け入れられるようになったり、自分なりの方法で気持ちを表現できるようになったりする姿を、現場の中で何度も見てきました。
強度行動障がい児支援において、「安心感」は支援の土台になるものだと実感しています。
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2.行動の背景にある“不安”や“伝わらなさ”を理解する
強度行動障害のある子どもたちの行動には、必ず理由があります。
しかし、その理由は周囲から見えにくく、「なぜ急に怒るのだろう」「どうしてこんな行動をするのだろう」と感じられてしまうことも少なくありません。
例えば、
- 急な予定変更への不安
- 初めての場所への緊張
- 自分の気持ちを言葉で伝えられない苦しさ、もどかしさ
- 感覚の過敏さによる疲れやストレス
- 《待つ》《我慢する》状況への強い負担感
など、その行動の背景には、本人が抱える大きな不安や困り感が隠れていることが多くあります。
ですが、それをうまく言葉にできないことで、泣く、怒る、物を投げる、自分を叩く、他害するなどの行動として表現されています。支援をしていると、つい目の前の行動にばかり意識が向きがちです。
しかし本当に大切なのは、「なぜこの行動が起きたのか」を考える視点だと感じています。
実際に、事前に予定を伝える、見通しを可視化する、安心できる職員がそばにいる、といった環境調整だけで落ち着いて過ごせるようになる子どももいます。
つまり、《問題行動》そのものをなくそうとするのではなく、子どもが不安になりにくい環境を整えることが、支援の第一歩になるのです。
行動だけを見るのではなく、その背景にある「困っている気持ち」を理解しようとする姿勢が、受容的療育の大切な土台なのだと思います。
3.「ダメ」よりも「わかる支援」~視覚支援と構造化の重要性~

強度行動障害のある子どもたちへの支援では、「何度言っても伝わらない」と感じる場面があります。
しかし実際には、「理解できていない」のではなく、「わかりにくい状態」になっていることがほとんどです。
例えば、
- 次に何をするのか分からない
- いつ終わるのか見通しが持てない
- 言葉だけでは理解が難しい
- 急な変更に気持ちが追いつかない
といった状況は、本人にとって大きな不安につながります。
そのため、受容的療育では「ダメ」「待って」「ちゃんとして」と繰り返すよりも、「どうすれば分かりやすく伝わるか」を大切にしています。
具体的には、
- 絵カードや写真を使う
- 活動の順番を事前に示す
- タイマーで終わりを見える化する
- 座る場所や活動場所を明確にする
- 変更がある際は事前に伝える
など、子どもが安心して理解できる環境を整えていきます。
こうした視覚支援や構造化は、「特別な支援」というよりも、「不安を減らすための配慮」なのです。
実際に、見通しが持てることで落ち着いて活動に参加できたり、自分から動ける場面が増えたりする子どもは多くいます。子どもを変えようとする前に、まず環境を分かりやすく整えること。それが、強度行動障がい児支援において非常に大切な視点だと思います。
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強度行動障害のある子どもたちに多かった“不安のサイン”
| 表面上は「問題行動」に見えたこと | 背景にあった不安や困りごと |
| 他害・大声・パニックが起きる | 気持ちを言葉で伝えきれなかった |
| 急な予定変更で崩れる | 見通しが持てず強い不安が生じていた |
| 「待つ」「我慢する」で混乱する | 感覚的・認知的な負荷が大きかった |
| 指示が入らず反発しているように見える | 「わからない状態」で混乱していた |
| 特定の職員に強く近づこうとする | 安心できる“安全基地”を求めていた |
4.受容的療育が子どもの自己肯定感を育てる理由
強度行動障害のある子どもたちは、日常の中で注意を受ける経験が多くなりやすい傾向があります。
- 「ダメ」
- 「危ない」
- 「静かにして」
- 「待って」
安全面を考えると必要な声かけもありますが、それが積み重なることで、“自分は怒られてばかりいる”と感じてしまう子どももいます。
そのような経験が続くと、自信を失ったり、「どうせできない」と感じたりすることにつながってしまいます。
だからこそ、受容的療育では「できていないこと」ではなく、「できたこと」や「頑張ろうとしている姿」を大切にします。
- 自分から気持ちを伝えられた
- 少し待つことができた
- 落ち着こうとする姿が見られた
- 支援者と一緒に活動へ参加できた
そうした小さな積み重ねを認めてもらう経験は、子どもの安心感や自己肯定感につながっていきます。
また、「失敗しても否定されない」「困った時は助けてもらえる」と感じられる環境は、子どもが新しいことへ挑戦する力にもつながっていくのではないでしょうか。
受容的療育とは、「甘やかすこと」ではなく、子どもが安心して自分を出せる土台を作る支援なのです。
そして、その安心感の積み重ねが、少しずつ子どもの成長や変化につながっていくものだと感じています。
5.問題行動を減らすのではなく、“安心して過ごせる環境”を作る
強度行動障害のある子どもたちへの支援では、「問題行動をなくすこと」に意識が向きやすくなりがちです。
もちろん、安全面への配慮は非常に重要であり、他害や自傷などに対しては適切な対応が必要です。
しかし、行動だけを止めようとする関わりが続くと、子ども自身も常に緊張した状態で過ごすことになってしまいます。
そのため、受容的療育では「どうすれば落ち着いて過ごせるか」という環境面を大切にしています。
例えば、
- 見通しを持てるようにする
- 安心できる職員との関係を作る
- 苦手な刺激を減らす
- 気持ちを切り替えられる場所を用意する
- 「できた」経験を積み重ねる
など、子どもが安心できる環境づくりを積み重ねていきます。
実際に、私が現在支援している強度行動障害のある子どもとの関わりも、この考え方を強く実感する経験となることがありました。
今の放課後等デイサービスへの勤務が決まった初日、私は数日前にその子どもから他害を受けた職員の傷痕を見ながら、複数の職員が対応について話し合っている場面に居合わせました。
- 「こんなに他害するなら見られない」
- 「この職員には近づけられない」
そんな言葉が飛び交っていました。
私は初日だったこともあり、その場では口を出さず、まずは様子を見ることにしました。数日後、実際にその子どもが通所してきました。その日の様子を観察していると、少しずつ行動の理由が見えてきました。
- 職員と遊びたいけれど、遊びへの誘い方がわからず、手や足が出てしまうこと
- 他児が職員と関わっていると、自分も構ってほしくて手が出てしまうこと
- 興奮すると、壁やパーテーションを叩いて気を引こうとしていること
そこには、「困らせたい」という姿ではなく、「関わりたい」「わかってほしい」という気持ちがあるように感じました。しかし当時の職員の支援は、「ダメ」「いけない」と行動を止めることが中心となっており、他害があると強く注意されるか、逆に計画的無視をされる場面もありました。
その様子を見て私が感じたのは、「支援そのものが、この子に合っていないのではないか」ということでした。
また、この子には、一対一で安心して関われる存在、いわゆる“安全基地”となる職員が必要なのではないかとも感じました。それから私は、できる限りその子に寄り添いながら、一対一での関わりを増やしていきました。
- 「遊んでほしい」
- 「貸してほしい」
- 「一緒にやりたい」
そうした気持ちを、少しずつ言葉や適切な関わり方で伝えられるよう、根気よく繰り返し関わっていきました。
また、他害行動があった際にも、ただ止めるのではなく、「遊びたかったんだね」「一緒にやりたかったんだね」と、その時の気持ちを汲み取る声かけを意識していきました。
小さなことでも大げさなくらい褒め、安心して関われる環境づくりを続けていく中で、少しずつ彼との関係性に変化が見られるようになりました。
私の名前を呼ぶようになり、自分から抱きついてきてくれたり、放デイ内でも、私の姿が見えないと探しに来たりするようになりました。ご家庭でも私の名前を話してくれていたそうです。ここまでの関係性になるのに、そう長くはかかりませんでした。
さらに大きく変化したのは、他児との関係性でした。以前は、怖がって近づけない子どもたちが多くいました。
しかし、安心できる環境づくりを続けていく中で、小集団活動へ参加できるようになり、「待つ」「一緒にやる」といった経験も積み重なっていきました。
すると今では、自然と他児の方から近づき、一緒に遊んだり、話しかけたりする姿が見られるようになっています。
一人の子どもに対して行っていた「安心できる環境づくり」は、結果として周囲の子どもたちにとっても安心できる環境につながっていたのだと感じました。
この経験を通して、私は改めて、「問題行動をなくすこと」だけを目的にするのではなく、「安心して過ごせる環境を整えること」の大切さを強く実感しました。
「問題行動をなくす」のではなく、「困らなくても過ごせる環境を整える」
その視点を持つことで、支援者側の関わり方も大きく変わると感じています。子どもを変えようとする前に、まず環境を整えること。それが、強度行動障がい児支援において非常に大切なことなのではないでしょうか。
6.小集団活動で育つ「成功体験」と他者理解
強度行動障害のある子どもたちにとって、集団活動はハードルが高い場面です。
- 順番を待つ
- 周囲の動きに合わせる
- 気持ちを切り替える
- 他者との距離感を保つ
こうしたことは、本人にとって大きな負担につながっています。
そのため、小集団活動では「みんなと同じようにできること」を目指すのではなく、「安心して参加できること」を大切にしています。
例えば、
- 職員がそばにつく
- 見通しを事前に伝える
- 活動量を調整する
- 成功しやすい役割を用意する
- 無理に参加を強制しない
など、子どもが安心できる環境を整えながら関わっていきます。
その中で、
- 「最後まで参加できた」
- 「順番を待てた」
- 「他児と一緒に笑えた」
- 「自分から活動へ向かえた」
といった小さな成功体験が、少しずつ自信につながっていきます。
また、小集団活動は、単に社会性を学ぶ場ではなく、「他者と一緒にいても安心できる経験」を積む場でもあると感じています。
安心できる関係や成功体験を積み重ねることで、少しずつ周囲への興味や関わりが広がっていく姿を、現場の中で多く見てきました。
受容的療育において、小集団活動は「できるようにする訓練」ではなく、「安心しながら人と関わる経験」を育てる大切な支援の一つなのだと思います。
7.児発管として大切にしたい、“その子を否定しない支援”
強度行動障害のある子どもたちは、「困った子」として見られてしまいがちです。
しかし、実際には本人なりに不安や生きづらさを抱えながら、一生懸命に過ごしている子どもたちなのです。支援をしていると、思うようにいかない日もあります。大きな声や他害、自傷などが続き、支援者側も悩み、迷うことがあります。
それでも、だからこそ大切にしたいのは、「その子自身を否定しない」という視点です。
行動だけを見るのではなく、
- 「何に困っているのだろう」
- 「何を伝えたかったのだろう」
- 「どうすれば安心して過ごせるだろう」
と考え続けることが、受容的療育の土台なのだと思います。もちろん、受容することは、すべてを許すことではありません。安全を守るために止めるべき場面や、ルールを伝える必要がある場面もあります。
しかし、その中でも「あなたを否定しているわけではない」という安心感を、子どもが感じられる関わりはとても大切だと思います。
安心できる環境や、受け止めてもらえる経験の積み重ねは、少しずつ子どもの自己肯定感や他者への信頼につながっていきます。そして、その積み重ねが、将来の生きやすさにもつながっていくのではないでしょうか。
これからも児童発達支援管理責任者として、一人ひとりの困り感や気持ちに寄り添いながら、「安心できる支援」を大切にしていきたいと思います。
最後に、私自身の療育観や子どもへの向き合い方を大きく変えるきっかけとなった一冊をご紹介します。
『自閉症療育のコペルニクス的転回 エビデンスは現場にある 萌葱の郷メソッド』

五十嵐 康郎 (著)
この本は、「問題行動をどう抑えるか」ではなく、「なぜその行動が起きているのか」「子どもは何を伝えようとしているのか」という視点から、支援を見つめ直す大切さを教えてくれました。
現場の実践をもとに書かれているため、理論だけではなく、日々子どもたちと向き合う支援者だからこそ感じる葛藤や気づきにも深く共感できる内容です。
私自身、この本を通して、「支援する側の都合」ではなく、「子どもの安心や理解」を中心に療育を考える視点を改めて学びました。
今でも、迷った時には立ち返る大切な一冊です。
よくある質問(Q&A)
Q1. 強度行動障害とはどのような状態ですか?
強度行動障害とは、自傷行為や他害行為、激しいパニックなど、本人や周囲の生活に大きな影響を与える行動が継続して見られる状態を指します。単に「困った行動」と捉えるのではなく、本人の不安や感覚特性、伝わりにくさなどの背景を理解することが大切です。
Q2. 強度行動障害のある子どもにはどのような支援が必要ですか?
まずは「行動を止めること」だけを目的にするのではなく、安心できる環境を整えることが重要です。見通しを伝える、刺激を減らす、安心できる人との関係を作るなど、不安を軽減する支援が求められます。
Q3. 視覚支援や構造化はなぜ効果的なのですか?
言葉だけでは理解が難しい子どもにとって、絵カードやスケジュール表、活動場所の明確化などは「次に何をするのか」を理解しやすくします。先の見通しが持てることで不安が減り、落ち着いて行動しやすくなるケースがあります。
Q4. 「受容的療育」とはどのような考え方ですか?
受容的療育とは、「問題行動だけを見る」のではなく、子どもの気持ちや背景を理解しながら支援していく考え方です。「なぜその行動が起きているのか」を丁寧に考え、安心感や自己肯定感を大切にしながら関わっていきます。
Q5. 強度行動障害は改善することがありますか?
適切な支援や環境調整によって、落ち着いて過ごせるようになるケースは多くあります。特に、安心できる人間関係や分かりやすい支援が整うことで、パニックや不安が軽減されることがあります。
Q6. 家庭でもできる支援方法はありますか?
家庭でも、活動の順番を見える化する、事前に予定を伝える、急な変更を減らすなどの工夫が役立つことがあります。また、「できないこと」だけでなく、「安心して過ごせる環境」を意識することも大切です。



