「保育園や幼稚園の先生からは『園では元気に問題なく過ごしていますよ』と言われるけれど、家では激しい癇癪や甘えが続いて毎日が本当にしんどい」 「この激しさは今だけの一時的なものなのか、それとも将来まで続く特性なのか分からず、先が見えなくて不安になる」 「お迎えの時に楽しそうにしている周りの親子と見比べてしまい、『どうしてうちだけこうなんだろう』と深い孤独を感じる」
園の面談や日々の送り迎えの際、先生から「大丈夫」と言われても、心のモヤモヤや焦りがどうしても消えず、一人で悩みを抱え込んでしまう保護者の方は少なくありません。
比べたくないと思いながらも周囲の「普通」に照らし合わせてしまい、家での我が子の激しさに疲弊していく日々は、本当に心身ともに辛いものです。
まず最初にお伝えしたいのは、「園では大丈夫」と言われているにもかかわらず、家庭での様子に不安や違和感を覚えることは、親として決して不自然でもおかしいことでもないということです。
今回は、園と家庭でお子さんの姿が全く違って見える背景にある心理、保護者が感じる「なんとなく気になる」という違和感の正体、そして一人で抱え込まずに園と上手に連携していくための具体的なアプローチについて、元保育士の視点から詳しく解説します。
目次
この記事でわかること
- 「園では優等生」な子が、家でだけ激しく崩れてしまう根本的な理由
- 毎日一緒にいる保護者だからこそ気づける「小さな違和感」が持つ大切な意味
- 園と家庭での姿の違いを「表と裏」のセットで捉えることの重要性
- 園の先生に我が子の家での様子を正確に伝え、理解してもらうためのメモの取り方
- 園への相談を「答えをもらう場」から「姿を共有する場」へ変える対話の技術
- 焦って白黒の答えを出そうとせず、周囲を巻き込んで「チーム」で子どもを見る心の持ち方
なぜ「園での姿」と「家庭での姿」がこれほど違って見えるのか?

先生から「園では問題ありません」と言われると、多くの保護者は「私の関わり方が悪いから、家でだけこんなにワガママになるのだろうか」と自分を責めてしまいがちです。しかし、児童発達支援や保育の視点から見ると、この二面性が起きる理由は子どもの「心のキャパシティと防衛本能」で綺麗に説明がつきます。
園と家庭で起きているお子さんの状態を、「集団での適応」と「家庭での安全基地」という対比で整理してみましょう。
- 園での姿(極限の緊張と適応):
子どもなりに周囲の空気を読み、お友達に合わせ、先生の指示に従おうと、脳と体(感覚)のアンテナを100%フル稼働させて、一生懸命に頑張って過ごしています。つまり、園で落ち着いて過ごせているのは、本人がそれだけエネルギーを使い果たして「適応」している証拠なのです。 - 家庭での姿(安全基地での完全な解放):
大好きな保護者が待つ家に帰ってきた瞬間、園で張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れます。世界で一番自分を丸ごと受け止めてくれる「安全基地」だからこそ、溜まった疲れやストレス、不安を、激しい癇癪や「ママやって」という過剰な甘え(退行)の形に変えて、すべて吐き出して解毒しているのです。
「園では大丈夫」の言葉の裏側
かつて保育士として働いていた頃の私は、保護者の不安を和らげたい一心で「園では問題なく過ごせていますから、心配ないですよ」とお伝えすることがよくありました。
しかし、実際に自分が親になり、毎日子どもと向き合う当事者になって初めて気づいたことがあります。
「園では大丈夫」という言葉は、家で限界まで我が子の激しさに付き合っている保護者にとっては、「家でのこの大変さは、あなたのしつけのせいで起きているんですよ」と突き放されたような、あるいは「あなたの気にしすぎではないですか」と悩みを否定されたような、深い孤独感を生む言葉にもなり得るということです。
毎日一緒に過ごしている保護者だからこそ気づける「なんとなく気になる」「いつもとどこか違う」という微細な感覚を、無理に打ち消す必要はまったくありません。まずは、「園で100%頑張っているからこそ、家でその反動(SOS)が出ているんだな」という構造を、正しく知っておいてください。
実践1|園に相談する前に準備したい「具体的なエピソード」の整理術
「園の先生に家での大変さを相談しても、いつも『大丈夫ですよ』と受け流されてしまう」という場合は、大まかに「家で大変なんです」と伝えるのではなく、先生がパッと状況をイメージできるよう、具体的な場面や行動をピンポイントで言語化して伝えることが非常に有効です。
相談の精度を上げ、園側にも「おや?少し丁寧に見守ったほうがいいかな」と意識してもらうために、以下のようなポイントを事前にメモしておくことをおすすめします。
- 「いつ、どんな場面で」起きるか(状況の特定):
保育園から帰ってきた直後、夕食の前、お風呂に入るのを嫌がるとき、朝の着替えのときなど、崩れやすい特定の引き金(タイミング)を書き出します。 - 「どのような行動が、どのくらい続くか」を具体的に(頻度と強さ):
ただ「癇癪がひどい」ではなく、「一度泣き始めると、床に寝転がって30分間は絶対に切り替えができない」「自分でできる着替えや食事を、毎日『ママが全部やって』と強く抵抗して泣き叫ぶ」といった、具体的な行動特性を記載します。 - 家庭で試して「効果があったこと・なかったこと」:
「抱っこしても余計に怒るけれど、一人で静かに過ごせるスペースにいると10分ほどで落ち着く」など、家庭での対応策のデータを共有します。
このように「場面・行動・頻度・強度」を客観的にメモして伝えることで、園の先生も「なるほど、園でお友達への譲り合いをかなり無理して頑張っているから、夕方のその時間に反動がきているのかもしれないな」と、園生活と家庭生活の「点と線」を繋げてお子さんを立体的に捉えることができるようになります。
実践2|「答えをもらう」ではなく「お互いの姿を共有する」イメージを持つ
園へ面談や相談に行く際、「うちの子は発達障害なのでしょうか?」「どうすればこの癇癪は治りますか?」というように、その場で一発で原因をはっきりさせたり、完璧な正解(答え)をもらおうとしたりする必要はありません。
園への相談は、家庭と園の双方が持っている「子どものパズルピース」を持ち寄り、重ね合わせていく「姿を共有する場」としてリラックスして捉えてみてください。
対話を行う際は、以下のような視点を持つと、園の先生とも良好な協力関係(チーム)を築きやすくなります。
- 「家庭で見えている姿」を素直に開示する:
「家ではこんなに不安定な姿があるんです」と伝えることで、園側も「では、園での活動の切り替えの時に、本人が無理をしすぎていないか、少し注意して観察してみますね」と、新しい見守りの視点を持つことができます。 - 「園での様子」を詳しく聞いてみる:
「園では、お友達とのトラブルの時にどんなふうに気持ちを切り替えていますか?」と聞くことで、「家では気づかなかった、本人が得意な対処法や環境調整のヒント」を園から教えてもらえることもあります。 - 関わり方の方向性を「一緒に」考えていく:
園と家庭の情報の擦り合わせを行うことで、「園でも家庭でも、本人が見通しを持ちやすいように、次の活動の予告を少し早めに行ってみましょうか」というように、共通した優しいアプローチの軸が見えてきます。
一度の相談で、すべての方向性が決まらなくても全く問題ありません。子どもの姿は、その時の環境や成長段階(心のコップの大きさ)によって、日々刻々と変化していくものだからです。
「園では大丈夫なのに心配」が起きる理由と向き合い方
| 保護者が感じること | 背景にある可能性 |
| 家でだけ癇癪や甘えが激しい | 園で頑張った疲れや緊張を家庭で解放している |
| 園では問題ないと言われる | 集団の中で精一杯適応している可能性がある |
| 「気にしすぎなのかも」と不安になる | 毎日見ている保護者だから気づける変化もある |
| 園と家庭で様子が大きく違う | 見えている場面が異なるため両方の情報が重要 |
| どう対応すればよいか分からない | 園・家庭・専門機関で情報共有することが大切 |
さいごに|保護者が感じる我が子の違和感との向き合い方
「今の関わり方のままで本当に大丈夫なのかな」と焦る気持ちが湧いてきたときこそ、どうか一人でその重荷を背負い込まずに、周囲の手を借りてください。
園の先生と話し合い、我が子の「頑張っている表の姿」と「甘えている裏の姿」をチームで共有していくだけでも、「この大変さを一緒に見守ってくれる大人が他にもいるんだ」と、保護者自身の肩の荷がすっと軽くなるはずです。
大人の心が少し落ち着くだけで、不思議とお子さんを見る眼差しや心のゆとりが変わり、家庭内の空気も穏やかに循環し始めます。
子育ては、親一人、家庭だけで完結させるものではありません。
焦って白黒の答えを出そうとするのではなく、園や地域、専門機関といった周囲の大人の手をたくさん巻き込みながら、その時々のお子さんのありのままの姿をみんなで一緒に愛おしみ、見守っていきましょう。その繋がった安心感こそが、巡り巡ってお子さんをさらに豊かに育てる、いちばんの安全基地になるはずです。
Q&A|よくある質問
Q1. 園の先生に「家での癇癪がひどい」と相談したら、「お母さんが家で甘やかしすぎているのが原因では?」と遠回しに言われて傷つきました。どう受け止めればよいですか?
A. 非常に深く傷つかれたことと思います。しかし、その先生の指摘は児童発達支援の構造から見ると「完全に誤解」ですので、ご自身を責める必要は一切ありません。 「家でだけ激しく崩れる」のは、お母さんの育て方が悪いからではなく、先述の通りお母さんとの間に「何をしても絶対に見捨てられない」という完璧な信頼関係(愛着)が育っているからこそできる、子どもなりの高度な自己防衛(ストレス発散)の姿です。もし園の担任の先生に理解を求めるのが難しいと感じた場合は、園の「主任の先生」や「園長先生」、あるいは地域の「発達支援センター」などの外部の専門機関に相談窓口を広げてみてください。客観的な視点を持つ別の専門家を間に挟むことで、お母さんの関わり方がいかに我が子の安全基地になっているかを、園側にも正しく理解してもらいやすくなります。
Q2. 園では問題ないと言われますが、家での様子(特定のこだわりや、視線が合いにくいなど)を見ていると、どうしても発達障害(ASDやADHDなど)の特性ではないかと疑ってしまいます。受診を検討すべきでしょうか?
A. 保護者の方が「なんとなく気になる」と感じる違和感の裏には、本人が集団生活の中で定型発達を装うために過剰に適応(カモフラージュ)し、心身を猛烈にすり減らしているケースが隠れていることがあります。まずは専門機関への「相談」から始めてみることをおすすめします。 園でトラブルを起こさないタイプのお子さんの場合、園の先生には特性が見えにくく、発見が遅れて小学校入学後に一気に不登校などの二次障害として顕在化することがあります。医療機関をいきなり受診するのはハードルが高いと感じる場合は、まずはお住まいの自治体の「子育て相談窓口」や「児童発達支援センター」などの専門職員に、家での具体的なエピソードメモ(実践1の内容)を持って相談に行ってみてください。園以外の専門的な第三者の目を入れて本人の行動観察をしてもらうことで、受診が必要かどうかも含めて、今後の見通しがクリアになり、保護者の方の不安も大幅に軽減されます。
Q3. 園への連絡帳や面談の際、先生に「モンスターペアレンツ(うるさい親)」だと思われずに、上手に家での困りごとを伝えるためのコツはありますか?
A. 園の先生のこれまでの保育や見守りに対する「感謝と敬意」を言葉のベースに置きながら、「家と園で力を合わせたい」という共同のスタンスで伝えるのが最大のコツです。 先生を攻撃したり、園の指導を疑ったりしているようなニュアンスで伝わってしまうと、防衛的な対応をされてお互いに溝が深まってしまいます。伝える際は、例えば「いつも園で優しく、温かく見守ってくださり本当にありがとうございます。先生方のおかげで、園ではとても落ち着いて楽しく過ごせていると聞き、本当に安心しています」とまず園での頑張りを称えます。その上で、「実は、園で100%本気で頑張ってきている分、家に帰ってくるとその反動なのか、夕方から激しい癇癪が続いておりまして、親としてどのように受け止めてあげるのが本人のリラックスに繋がるか悩んでいます。もしよろしければ、園での本人の様子を詳しく伺いながら、家での関わり方のヒントを一緒に考えていただけないでしょうか?」というように相談を持ちかけます。このように「先生は我が子の良き理解者である」というリスペクトの姿勢で頼られると、先生方も「よし、一緒にこの子を支えよう!」と、心強い味方になって全力で動いてくれるようになります。

【注意事項】
本記事は、児童発達支援管理責任者、心理カウンセラー、言語聴覚士をはじめとする専門家個人の知見や経験、学術的背景に基づいて執筆・監修されたものです。子どもの特性や発達の状況、支援との相性には大きな個人差があり、すべての子どもに同様の効果や変化を保証するものではありません。また、本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の診断や医療行為、個別の療育指導に代わるものではありません。実際に支援方法や対応を判断される際は、必要に応じてお子様を普段から知る主治医や専門家、支援機関などにご相談の上、ご自身の判断のもとで参考情報としてご活用いただきますようお願いいたします。


