集団生活で一歩リードするための感覚アプローチ|感覚を知ることがその子を知る第一歩

「うちの子、みんなで集まる活動が始まると必ず立ち歩いてしまうんです」
「給食の時間になると泣いてしまって、園に行きたがらないんです」
「運動会の練習中、ずっと耳をふさいで辛そうにしているんです」

幼稚園や保育園、地域での集団生活の中で、このような場面を目にしたことがある保護者や支援者の方は多いのではないでしょうか。子どもの姿を前にして、「どうして周りと同じようにできないんだろう」という困惑や、辛そうにしている我が子を見つめるやるせなさに、胸を痛めている方も少なくありません。

私は長年、こうした集団生活の中で葛藤を抱えるお子さんたちと向き合ってきました。そこで確信していることがあります

それは、「集団行動が苦手」に見えるお子さんの多くは、決して怠けているのでも、反抗しているのでもなく、脳における「感覚の処理」に困難を抱えているだけだ、ということです

今回は、園生活の「当たり前」の裏で働いている「感覚統合」の仕組みと、園や家庭で明日からすぐにできる具体的なサポート、そして感覚を育てる遊びについて、児童発達支援管理責任者(児発管)の視点から詳しくお伝えします

>うちの子、他の子と違う?と悩む保護者さんへ|育児書通りにいかないときの発達のとらえ方と「線の視点」

この記事でわかること

  • 園生活をスムーズにする脳の仕組み「感覚統合」と、重要な2つの隠れた感覚
  • 立ち歩き、給食への恐怖、耳ふさぎ、不器用さの裏にある感覚的な背景
  • 担任の先生と共有したい、園の現場で今すぐできる5つの環境調整ポイント
  • 特別な道具は不要。固有覚・前庭覚・触覚を豊かに育てる日常の遊び一覧

「感覚統合」と2つの重要な隠れた感覚

「感覚統合」と2つの重要な隠れた感覚

私たちは普段、「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚」という五感を使って世界を認識しています。しかし、子どもの発達や集団行動を読み解く上で、感覚統合の世界ではこれらに加えて「2つの隠れた感覚」が極めて重要であるとされています。

① 感覚統合とは?

感覚統合とは、私たちが環境から受け取るさまざまな膨大な感覚情報を脳が適切に整理・分類し、その場に応じた「適切な行動(座る、話を聞くなど)」へとつなげるプロセスのことです

② 集団生活を支える2つの隠れた感覚

  • 固有覚(こゆうかく):
    筋肉や関節から脳に伝わる感覚です。「自分の体が今どこに、どのような姿勢であるか」「どれくらいの筋力を使っているか」を、目で見て確認しなくても感じ取るために働いています。
  • 前庭覚(ぜんていかく):
    耳の奥にある三半規管などの器官が担う感覚です。「体のバランス(平衡感覚)」「動くスピードや傾き」「重力」を正確に感じるために働いています。

これらの感覚が脳の中でスムーズに統合されているとき、子どもは「椅子にまっすぐ座り続ける」「列を乱さずに並ぶ」「はさみを適切な力で使う」といった園生活に必要な行動を、特別な意識をせずとも自然にこなすことができます

逆に言えば、これらの感覚処理に未発達や困難を抱えているお子さんにとっては、周囲が「当たり前」「普通」と見なす一つひとつの動作が、常にフルマラソンを走っているかのような膨大なエネルギーを消費する大作業になってしまうのです。

実践|園生活で起きやすい4つの困りごとと感覚的背景

幼稚園や保育園での一日の流れの中で、感覚の困りごとはどのような行動として現れるのでしょうか。代表的な4つの場面について、その理由と対応を解説します

① 朝の会・終わりの会での「立ち歩き・ごろごろ」

【感覚的な背景】前庭覚・固有覚の刺激不足(感覚探求)

「みんなが座って先生のお話を聞いているのに、すぐに立ち歩いてしまう」「床の上で姿勢を保てず、ごろごろと寝転がってしまう」という行動は、落ち着きがないわがままに見えますが、実は真逆です。 脳内の前庭覚や固有覚の刺激が不足しているため、脳が飢餓状態になり、「もっと体を動かして感覚の刺激を仕入れろ!」と脳が体にサイン(感覚探求)を出している状態なのです。

【現場での工夫】

登園直後や会が始まる前に、少し多めに体を動かす活動(公園の遊具で遊ぶ、軽い体操、少し重いものを運ぶお手伝いなど)を意図的に取り入れて、あらかじめ脳に感覚刺激を満たしてあげることで、その後の「座って集中する時間」が続きやすくなります

② 給食の時間での「激しい偏食・しぶり」

【感覚的な背景】触覚(口腔内)・嗅覚・味覚の過敏さ

「偏食がひどくて給食の時間を極端に嫌がる」というお子さんの背景には、口の中の粘膜の触覚や、においへの強い過敏さが関わっています。 「ぐにゃっとした食感がどうしても耐えられない」「特定の強いにおいで本気で吐き気がしてしまう」というのは、好みの問題ではなく、脳がその食材を「危険物」と捉えている真剣な苦痛です。

【現場での工夫】

ここで完食を無理強いしてしまうと、給食の時間そのものが「恐怖の時間」へと変わり、結果として登園しぶりへと直結してしまいます。まずは「無理に食べなくてもいいんだ」という絶対的な安心感を保証してあげることが最優先です

③ 音楽活動や行事での「耳ふさぎ・パニック」

【感覚的な背景】聴覚の過反応(音量調節の困難)

太鼓の大きな響き、運動会で鳴り響くピストルの音、一斉に叫ぶ子どもたちの歓声など、にぎやかな場面で耳をふさいだりパニックを起こしたりする場合、聴覚過敏が強く関わっています。 これらのお子さんにとって、突然の大きな音は「うるさい」というレベルではなく、耳の奥を直接突っ突かれるような「物理的な痛み」に近い感覚として届いています。自分を守るための本能的な防御反応ですので、叱ったり無理に手をのけさせたりしてはいけません。

【現場での工夫】

スピーカーから離れた席への配置、イベントが始まる前の事前予告(「今から大きな音が鳴るよ」と伝える)、どうしても耐えられないときに静かに過ごせる一時的な逃げ場所の確保などが極めて有効なサポートになります

④ 製作・工作の時間での「不器用さ・手のコントロール」

【感覚的な背景】固有覚の未発達 + 触覚の過敏・鈍麻

「はさみがうまく噛み合わない」「のりをつける量を調節できずにベタベタにしてしまう」「クレヨンを持つ力が強すぎて、すぐに紙を破ったり芯を折ったりしてしまう」。これらは「練習不足」や「不器用な性格」として片付けられがちですが、背景には自分の筋力を微調整する固有覚の未発達や、手のひらの触覚のバランスの悪さが潜んでいます

【現場での工夫】

土台となる感覚が脳の中で十分に育っていない状態で、いくら「もっと綺麗にはさみを使いなさい」と技術的な練習だけを繰り返しても、なかなか定着せず子どもに苦手意識を植え付けるだけになってしまいます。まずは遊びを通して、手のひらの感覚の土台を育てていくステップを優先しましょう

>「困った行動」の奥にある感覚のSOS|遊びで育む感覚統合アプローチと家庭・保育でできる支援

実践|担任の先生と共有したい園での合理的配慮

幼稚園や保育園は、大勢の集団で動く場所であるため、一人だけのために大規模な環境変更を行うことは難しい場合もあります。しかし、クラスの運営を妨げない範囲での「小さな工夫」を施すだけで、子どもの安心感と集団行動のしやすさは劇的に変わります

担任の先生と面談や情報共有を行う際は、「うちの子が迷惑をかけてすみません」という謝罪ではなく、「この子は今、何の感覚の処理に困っているのだろう?」という視点から、以下のような具体的な環境調整を一緒に相談してみることをお勧めします。

  • 座位環境の安定:
    床座りや椅子の座面に、滑り止めのついた座布団や姿勢保持クッションを置くことで、固有覚が働きやすくなり、体が安定して真っ直ぐな座位を保ちやすくなります。
  • 活動の事前予告:
    集会や音楽活動、避難訓練などの前に、「今日はこれから大きな音が鳴る活動をするよ」と事前に一言教えてもらうだけで、子どもは心の準備(防衛の構え)ができ、パニックを軽減できます。
  • 安心コーナー(感覚の避難所)の設置:
    教室内やプレイルームの隅に、ついたて等で区切られた「不安が高まったときに一人で静かに落ち着けるスペース」を作ってもらい、しんどくなったらそこへ行って休んでよいというルールを共有します。
  • 給食の目標設定の変更:
    「全部残さず食べる(完食)」をゴールにするのではなく、「自分で選んだ1種類だけを、一口だけチャレンジできたら大成功!」というスモールステップに切り替え、小さな成功体験を積み重ねます。
  • 製作活動の評価基準の変更:
    見本通りに綺麗な作品を完成させること(完成度)にこだわるのではなく、「ハサミを自分で持って参加できたこと」「のりの感触を嫌がらずに触れたこと」など、プロセスや参加したこと自体をたくさん褒めてあげます。

実践|家庭や日常の中で感覚統合を豊かに育てる遊び

感覚統合を促すために、高価な器具や特別な施設での専門トレーニングは必ずしも必要ありません。子どもが「楽しい!もっとやりたい!」と自発的に感じる日常の遊びの中にこそ、脳を発達させる最高の刺激が詰まっています

①固有覚・前庭覚(体の軸と力加減)を育てる遊び

  • 公園での「ぶら下がり・登り・ジャンプ」:
    鉄棒にぶら下がる、ジャングルジムを登る、高いところから両足でジャンプする、といった全身運動は、筋肉と関節(固有覚)、そして重力とスピード(前庭覚)を同時に激しく刺激する最高の療育遊びです。
  • 「相撲ごっこ・押し引きゲーム」:
    布団の上でお父さんやお母さんと相撲を取る、お互いの手のひらを合わせて押し合って耐えるなど、体に心地よい抵抗や圧力をグッと与える遊びは、固有覚の発達に非常に効果的です。
  • 「くるくる回る・ゆらゆら揺れる」:
    公園のブランコや回転遊具、室内で大人が子どもを抱っこして優しく回転する、バランスボールの上でゆらゆら揺れるといった活動は、前庭覚を穏やかに刺激し、脳の覚醒を整えます。

②触覚・手先のコントロール(器用さ)を育てる遊び

  • 「ぐにゃぐにゃ・ざらざら」素材に触れる遊び:
    小麦粉粘土、スライム、砂場遊び、泥遊びなど、手全体を使って様々な硬さや温度の素材に触れる体験は、皮膚のアンテナの混乱を整え、触覚の過敏さをゆっくりと和らげていく効果があります。
  • 「ちぎる・丸める・剥がす」指先の遊び:
    読み終わった新聞紙を思い切り指先でビリビリにちぎる、折り紙を手のひらでギュッと丸めてボールにする、シールを指先でつまんで台紙から剥がして貼る、といった微細な動作が、手先の鋭敏な感覚を育てます。
  • 日常の「お手伝い」の仕組み化:
    ご飯の時におにぎりを手で一緒に握る、雑巾を自分で絞って床を拭く、少し重たい荷物(ペットボトルの入った袋など)を運んでもらうといった日常のお手伝いは、手先や全身の感覚を自然に使う絶好の機会になります。

集団生活が“過ごしやすくなりやすかった子ども”に共通していた工夫

効果につながりやすかった工夫背景にあった理由や意味
感覚特性に合わせた環境調整を行っていた「頑張り不足」ではなく感覚の困りごとへの支援になっていた
活動前に見通しを伝えていた不安や予測できない刺激を減らしやすかった
体を動かす時間を意識的に作っていた集中に必要な感覚刺激を満たしやすかった
「できない理由」を感覚面から考えていた子どもの行動を理解しやすくなっていた
小さな成功体験を積み重ねていた自信や安心感が集団参加につながっていた

さいごに

かつて幼稚園の現場に立っていた頃、私はお恥ずかしいことに、立ち歩いたり指示に従わなかったりする子どもたちに対して「なぜ先生の言うことがちゃんと聞けないの!」と、感情的に声を荒げてしまうことが度々ありました

しかし、その後感覚統合の視点を知り、専門的に学んだ今、当時の自分の言葉を深く後悔しています

あの子たちは、決して大人の言うことを無視していたわけでも、ふざけていたわけでもありませんでした。大人の私には見えていなかった「過酷な感覚の嵐」の中で、彼らなりに精一杯、その場に適応しようと必死に戦っていたのです

幼稚園や保育園という集団生活の場は、子どもにとって「自分とは違う多くの他者と、同じ共通のルールの中で過ごす」という、人生で初めての非常に高度な経験の舞台です。 感覚の処理が周囲と異なるお子さんにとって、その空間は毎日が「フル装備で挑まなければならない過酷な戦場」のように感じられていることすらあります。

だからこそ、私たち大人が「なぜみんなと同じようにできないのか」と結果だけを責めるのは終わりにしましょう。「今、この子の何が難しくなっているのだろう?どのアンテナが痛がっているのだろう?」と、背景にある原因を一緒に優しく探り、紐解いていくことこそが大切です

保護者や支援者が「感覚の困りごと」という新しい色付きのメガネ(視点)を一つ持つだけで、明日からの子どもへの声かけ、環境のつくり方、そして園との連携の在り方は、驚くほど前向きに変わっていきます

「うちの子、どうも集団行動が苦手みたいで……」とその困りごとに直面したときは、その行動の奥深くに、隠れた「感覚のサイン」が眠っていないか、一つひとつ、丁寧に耳を傾けてあげてください

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よくある質問(Q&A)

Q1. 朝の会で立ち歩くので、登園前に公園で遊ばせたら、今度は疲れてしまって園で眠くなってしまいました。加減が難しいです。

A. 体力を激しく消耗させる「有酸素運動」ではなく、筋肉にグッと負荷をかける「固有覚への短い刺激」に切り替えてみましょう。

登園前に走り回るような遊びを長く続けると、感覚が満たされる前に純粋な身体的疲労(エネルギー切れ)を起こしてしまいます。おすすめなのは、時間は5分程度と短く、体にしっかりとした圧が入る活動です。例えば、「登園時に少し重めのリュックを背負ってしっかり歩く」「園の玄関に着いてから、お母さんの手のひらと『10秒間、力いっぱい押し相撲』をする」「お部屋に入る前に階段を一段ずつしっかり踏みしめて登る」といった工夫です。これだけでも、体力を削ることなく、脳の「座るためのスイッチ」を入れることができます。

Q2. 製作の時間、のりのベタベタした感触を嫌がって泣いてしまいます。無理に触らせず、大人が代わりにやってあげるべきでしょうか?

A. 大人が全部を代行するのではなく、「道具(ワンクッション)」を使って本人が製作に参加できる工夫をしてみましょう。

触覚過敏のある子にとって、ダイレクトに指にのりがつく感触は強烈な不快感です。これを無理に克服させようとする必要はありません。代わりに「ヘラを使ってのりを伸ばす」「スティックのりを用意してもらう」「指先にだけ小さなサックやラップを巻いて触る」といった方法を提案してみてください。また、指が汚れたらすぐに拭き取れるように、濡れ雑巾やウェットティッシュを常に本人の手元に置いておき、「汚れてもすぐ綺麗にできるから大丈夫」という安心感を作ってあげることも、恐怖心を和らげる大きな支えになります。

Q3. 園の先生に「感覚統合の視点で配慮をお願いしたい」と伝えるとき、モンスターペアレントのように思われないか不安です。

A. 「園の先生のこれまでのご苦労」への感謝を最初にお伝えし、要求ではなく「園と家庭で一貫した対応をするための、具体的な情報共有」というスタンスで相談してみましょう。

先生方も日々、多くの子供たちを前に奮闘されています。そのため、いきなり専門用語を並べて「こういう配慮をしてください」と伝えると、責められているように感じてしまうことがあります。まずは「いつも園で温かく見守ってくださりありがとうございます。実は家でも◯◯な場面で困ることがあり、専門の機関に相談したところ、この子は音(または姿勢の保持)に少し特徴があることが分かりました」と切り出します。その上で、「園で少しでも本人が落ち着いて過ごせるように、例えば席を少し端にしてもらうなどの小さな工夫について、担任の先生のご意見を伺いたいです」と、先生の専門性を尊重しながら、一緒にチームとして作戦を立てる形でアプローチすると、非常にスムーズに協力体制が築けます。

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西田沙世

執筆者

児童発達支援管理責任者
西田 沙世

【プロフィール】
幼稚園教諭から療育の世界へ踏み出し、公立の通園施設・支援センターで発達支援の経験を積みました。「すべての子どもにその子に合った支援を」という思いのもと、民間の児童発達支援・放課後等デイサービス「こども遊育プレイス ぱれっと」を設立。遊びを通じて子どもの力を引き出す支援を日々実践しています。

【保有資格】
児童発達支援管理責任者、保育士、幼稚園教諭免許、臨床発達心理士、感覚統合認定士、児童発達支援士、発達障害コミュニケーションサポーター、SSTスペシャリスト、メンタルヘルス支援士、自閉症スペクトラム支援士

一般社団法人 人間力認定協会 事務局長 望月宏彰

この記事の監修

一般社団法人 人間力認定協会
監修責任者:事務局長 望月宏彰

当協会は、延べ5万人が学ぶ「児童発達支援士」等の資格認定をはじめ、専門家による調査報告書の提供、講演会、絵画コンクールの開催など、発達支援の普及と向上に向けた多角的な活動を行う専門機関です。「日本の資格・検定」アワードにおいて、2022年に「児童発達支援士」、2026年に「メンタルヘルス支援士」が受賞しており、業界から高い評価をいただいています。 本コラムは、協会の支援方針および倫理規定に基づき、正確な情報発信であるかを監修・確認しています。

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