支援者と保護者が同じ方向を見るためのコミュニケーション|子どもを真ん中に置いた「チーム」を作る対話の技術

子どもの発達支援において、現場の人間が何よりも大切にしなければならないことの一つが「保護者とのコミュニケーション」です。

どれほど素晴らしい、専門的な療育やカリキュラムを事業所の中で提供していたとしても、ご家庭との連携が取れていなければ、子どもは場所ごとのルールの違いに戸惑い、混乱してしまうことがあります。

反対に、支援者と保護者が信頼で結ばれ、全く同じ方向を向いてアプローチできているとき、子どもは揺るぎない安心感に包まれ、本来持っている力を最大限に発揮して成長していくことができます。

私は児童発達支援管理責任者(児発管)として、日々多くの保護者面談や学校・関係機関との連携を行っていますが、現場にいればいるほど「目の前の子どもへのダイレクトな支援以上に、保護者との確固たる信頼関係づくりこそが療育の成否を分けると感じる場面に数多く直面します。

今回は、支援者と保護者が心理的なズレをなくし、同じチームとして子どもを支えていくために不可欠なコミュニケーションのポイントについて、具体的に紐解いていきます。

この記事でわかること

  • 園・事業所と家庭で子どもの姿が違って見える構造(環境による行動の変化)
  • 専門知識を振りかざす前に、支援者が徹底すべき「傾聴」と「受容」の姿勢
  • 課題(問題行動)の指摘ばかりに偏らず、日々の「小さな成長」を言語化して共有する意義
  • 「個別支援計画」の面談で、支援のゴールと優先順位をすり合わせる重要性
  • 意見や方針が食い違ったとき、対立を避けて「子どもを真ん中に置く」対話の技術
  • 協力し合う大人たちの姿を見て、子どもが内側に育む「絶対的な安心感」

子どもの支援は「正しさの証明」ではなく「一緒に考える」ことから始まる

子どもの支援は「正しさの証明」ではなく「一緒に考える」ことから始まる

発達に特性のあるお子さんを支援していると、事業所で見せている姿と、ご家庭で見せている姿が大きく食い違い、支援者と保護者の間で認識のズレが生じることが珍しくありません

  • 事業所での姿:
    集団活動にもスムーズに参加し、落ち着いてお友達と関わることができている。
  • ご家庭での姿:
    家に帰った瞬間から激しい癇癪が続き、親の言葉が一切届かない状態になる。

あるいはこの逆で、家庭では非常に穏やかに過ごせているのに、学校や集団の場に出ると激しく苦戦してしまうというケースも多々あります

このような現象が起きたとき、大人はつい「どちらの言っていることが正しいのか」「どちらの場所での姿が本当の姿なのか」と白黒をつけたくなってしまいます。しかし、子どもは環境や相手、かかる負荷の大きさによって見せる顔を巧みに変えるものです。大人でも、職場での顔と家庭での顔が全く違うのと同様です

したがって、支援において重要なのは「正しさの議論」をすることではありません。「それぞれの場所で、子どもがどんなサインを出しているのか」を客観的に持ち寄り、立体的なパズルを完成させるように共有することです。

保護者は家庭でのありのままの困りごとを伝え、支援者は事業所で見せる強みや工夫を伝える。この丁寧な情報の積み重ねがあって初めて、子どもの「本当の困り感」や「隠れた得意分野」が浮かび上がってきます。支援とは、専門家が一方的に処方箋を出すものではなく、保護者と共に考え、共に悩み、共に喜ぶプロセスそのものなのです

実践1|専門家としての「答え」を出す前に、まずは徹底して話を聞く

支援者は専門職であるがゆえに、保護者から相談を受けると、つい「どうやってこの行動を改善するか」「どんな療育手法(ABAや構造化など)を当てはめるか」という解決策(答え)を急いで提示しようとしてしまいがちです。

しかし、保護者との関係づくりにおいて最も強力なアプローチは、気の利いたアドバイスをすることではなく、相手の話に徹底して耳を傾ける「傾聴」にあります

日々の面談の際、私は以下のような、あえて余白のある質問を投げかけるようにしています

  • 「最近、全体の様子はいかがですか?」
  • 「日々の生活の中で、何か気になっていることや困っていることはありませんか?」
  • 「お家では、どんな表情を見せてくれることが多いですか?」

こうした問いかけをきっかけに、保護者の方の口からは、目の前のお子さんの話だけでなく、胸の奥に閉じ込められていた様々な背景が溢れ出てくることがよくあります

  • きょうだい児への関わり方や、配分の難しさについての悩み
  • 発達特性への理解を巡る、夫婦間や親族間での温度差
  • 毎日の激しい育児と、仕事(キャリア)との両立による疲弊
  • 「この子の将来はどうなってしまうのだろう」という、先の見えない漠然とした不安

時には、話しているうちに張り詰めていた緊張が解け、お母さんやお父さんが面談室で涙を流されることもあります。それほどまでに、毎日を必死に生き、孤独に頑張ってこられたということです

支援者が目指すべき最初のステップは、立派な解決策を提示することではありません。まずは相手の言葉をそのまま受け止め、「本当に毎日よく頑張っていらっしゃいますね」「一人で抱え込まなくて大丈夫ですよ、これからは私たちが一緒に背負いますから」という姿勢を示すこと。この安心感の保障こそが、崩れない信頼関係の強固な第一歩となります。

実践2|困りごと(課題)だけでなく「小さな成長」を言葉にして共有する

福祉や支援の現場では、性質上、個別支援計画の更新や日々のフィードバックにおいて「今何ができていないか」「どんなトラブルがあったか」という課題や問題点ばかりに焦点が当たりがちです

しかし、保護者が本当に心の底から求めている情報は、我が子の「困った行動の報告」だけではありません。日々の生活の中に隠れている「確かな成長の兆し」です

  • 「以前は順番が待てずに手が出てしまいましたが、今日はタイマーを見ながら3分間じっと待つことができました」
  • 「お友達におもちゃを奪われそうになったとき、手を出さずに『貸して』と言葉で伝えることができました」
  • 「苦手意識の強かった活動に対しても、お友達の様子を見ながら、自分から進んで一歩挑戦する姿が見られました」

こうした小さな変化は、毎日24時間体制で子どもと向き合い、心身ともに余裕をなくしている保護者の方にとっては、近すぎて逆に気づきにくくなってしまうことが多々あります

だからこそ、客観的な視点を持つ支援者が、プロの目線でその意味を言語化し、価値づけをして伝える必要があります。 「今日はこんなに素敵な場面があったんですよ」という一本のポジティブな連絡が、傷つき疲れた保護者の心をどれほど励まし、明日からの子育てに向かうエネルギーになるかは計り知れません

実践3|ぶれない支援のために「ゴール(目標)の優先順位」をすり合わせる

支援者と保護者が、それぞれ頭の中で違う目標(ゴール)を描いたまま走り出してしまうと、その矛盾のシワ寄せはすべて子どもに向かい、子どもを深く混乱させる原因になります

目標のズレの典型例を、「学習面の期待」と「集団適応の優先」という対比で見てみましょう。

  • 保護者の願い(学習やスキルの獲得):
    「将来困らないように、今のうちに文字の読み書きや、お勉強の遅れを取り戻すよう厳しく指導してほしい」
  • 支援者の見立て(土台となる情緒の安定):
    「今は学習以前に、環境の変化に対する不安が強い状態なので、まずはリラックスして集団活動に安心して参加できるようになることが最優先である」

どちらの願いも、子どもを想うがゆえの間違いのない視点です。しかし、この方針を擦り合わせないまま、事業所では「のびのび休んでいいよ」と言われ、家庭では「どうして宿題ができないの」と詰め寄られる状況が続けば、子どもの自己肯定感は失墜してしまいます

だからこそ、個別支援計画を策定する面談などの場において、以下のポイントを保護者に丁寧に説明し、納得(合意)を得るプロセスが不可欠になります

  1. なぜ、いま、この目標を設定しているのかという「根拠」
  2. 数ある課題の中で、今トップに持ってくるべき「優先順位」の理由
  3. このステップをクリアした先に、どのような力を段階的に伸ばしていくかという「長期的なロードマップ」

大人が同じゴールを共有し、家庭でも事業所でも同じ一貫した基準で関わることができる環境が整ったとき、子どもは「大人の世界の予測可能性」を理解し、深い安心感の中で次のステップへと進むことができるようになります

支援者と保護者が同じ方向を向くために大切なこと

大切なポイント子どもへの良い影響
まずは保護者の話を丁寧に聞く安心して悩みを共有しやすくなる
困りごとだけでなく成長も伝える保護者が前向きな気持ちを持ちやすくなる
支援の目標や優先順位を共有する家庭と事業所で一貫した関わりができる
意見の違いを対立にしない子どもが混乱しにくくなる
「子どもにとって何が良いか」を中心に考える安心感のある支援環境につながる

さいごに|子どもを真ん中に置いた「チーム」を作る対話の技術

支援を続けていくプロセスにおいては、時に支援者と保護者の意見が食い違うこともありますし、学校や外部機関との方針の違いに頭を悩ませることもあります

意見の相違が起きたときに、私たちが立ち返るべき唯一の羅針盤は、「誰の意見が正しいか」という大人のプライドのぶつかり合いではありません。「いま、この子にとって本当に良い選択はどちらだろうか」という、子どもを真ん中に置いた視点です。

支援者には、数多くの症例や理論に裏付けられた「専門的な知識」があります。 保護者には、生まれてから今日まで、我が子の機微を誰よりも近くで見つめ、命がけで育ててきた「経験と愛着」があります

この二つの視点は、どちらが優れているというものではなく、子どもの豊かな成長という船を漕ぎ進めるために、決して欠かすことのできない「左右の両輪」なのです

お互いの専門性と経験にリスペクトを払い、意見が違ったときこそ「この子の未来のために、今何ができるか」を同じテーブルで対等に話し合う。子どもたちは、周りの大人たちが自分のためにいがみ合っているのか、それとも自分のために笑顔で協力し合っているのかを、言葉以上に敏感に感じ取っています

支援者と保護者は、子どもを幸せにするための対等なチームです。 子どもの成長を共に最大級の笑顔で喜び、壁にぶつかったときには共に頭を悩ませて次の一手を考える。そんな温かい大人の繋がり(ネットワーク)そのものが、子どもたちの生涯にわたる安心と、確かな成長を支える最強の土台になると、私は信じています

Q&A|よくある質問

Q1. 個別支援計画の面談で提示された目標が、親の希望(将来の就労を見据えた厳しい訓練)とかけ離れており、優しすぎる(甘すぎる)ように感じて不満です。どう伝えれば角が立ちませんか?

A. 「将来を見据えて、今から力をつけてあげたい」という親御さんの切実な愛情をベースに伝えつつ、なぜ今その緩やかな目標になっているのか、その「ステップの必要性」について支援者と徹底的に対話してみてください。 大人が違う方向を向いたままでは、子どもが一番混乱してしまいます。伝える際は、「先生方が本人の今の気持ちを尊重して優しく関わってくださり感謝しています」と伝えた上で、「ただ、親としては将来社会に出たときのことを考えると、今のうちから少しずつ我慢やタスクをこなす訓練も必要ではないかと焦ってしまいます。今の段階で、あえてこのリラックスを優先する目標にしている理由や、今後どのようなステップで社会性を身につけていく計画なのか、先生方の長期的な見通しを詳しく教えていただけますか?」と質問する形を取るのがスマートです。支援者側から、今の情緒の土台作りが将来の就労(二次障害の防止)にいかに直結しているかという納得のいく説明を受けることで、安心してゴールを共有できるようになります

Q2. 児童発達支援のスタッフの方から、お迎えの時に毎日「今日も他のお友達を叩いてしまいました」「指示に従えませんでした」と悪い報告ばかりされ、事業所に行くのが憂鬱です。

A. 毎日そのようなフィードバックばかりでは、お迎えの時間が苦痛になってしまうのも当然です。支援者側の「困りごと共有のバランス」が崩れている状態ですので、面談などの場でリクエストを出して問題ありません。 支援者は、家庭との連携のために事実を伝えなければという義務感に駆られている可能性がありますが、保護者が本当にエネルギーをもらえるのは「困りごと」ではなく「成長の共有」です。この場合は、児発管(管理責任者)との面談や連絡帳などを通して、「先生方の大変さも理解しており、家でも対応を考えたいので報告はありがたいのですが、現状、悪い報告ばかりが続くと親としても精神的に追い詰められてしまい、我が子を素直に可愛いと思えなくなってしまいそうで悩んでいます。もしよろしければ、どんなに些細なことでも構いませんので、本人が少しでも頑張っていた姿や、できた部分、笑顔を見せてくれた場面なども合わせて教えていただけると、明日からの育児の励みになります」と、率直な心の困り感を伝えてみてください。まともな事業所であれば、報告の仕方をすぐに見直して、成長のピースも一緒に届けてくれるチームになってくれるはずです

Q3. 学校(担任)の方針と、放課後等デイサービス(児発管)の方針が真逆で、親としてどちらの言うことを信じて家庭で実践すればいいのか板挟みになっています。

A. どちらか一方を「正しい・間違い」で判断するのではなく、親御さんがハブ(架け橋)となって「子どもを真ん中に置いた三者(または二者)の対話」の場を設定することを強くおすすめします。 学校には学校の「集団を維持するためのルール」があり、放デイには放デイの「個に寄り添う福祉の見地」があるため、意見が食い違うことはよくあります。ここで親御さんが板挟みになってメッセージを伝言ゲームのように往復させると、誤解が生じて関係が悪化し、子どもが一番の被害者になってしまいます。ぜひ、放デイの児発管に「学校での対応とデイでの対応が違っており、本人が少し混乱している様子が見られます。お互いの専門的な知見を持ち寄って、本人が一番過ごしやすくなる共通の関わり方を考えたいので、次回の学校での個別の教育支援計画の会議(または三者面談)に、デイの先生も同行(または情報共有の連携)していただけないでしょうか?」と打診してください。福祉の専門職が学校の先生と直接、リスペクトを持って専門的対話を行うことで、驚くほどスムーズに環境調整や共通のゴールが設定され、子どもを中心にした強固なネットワーク(チーム)が完成します

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【注意事項】

本記事は、児童発達支援管理責任者、心理カウンセラー、言語聴覚士をはじめとする専門家個人の知見や経験、学術的背景に基づいて執筆・監修されたものです。子どもの特性や発達の状況、支援との相性には大きな個人差があり、すべての子どもに同様の効果や変化を保証するものではありません。また、本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の診断や医療行為、個別の療育指導に代わるものではありません。実際に支援方法や対応を判断される際は、必要に応じてお子様を普段から知る主治医や専門家、支援機関などにご相談の上、ご自身の判断のもとで参考情報としてご活用いただきますようお願いいたします。

髙木祥子

執筆者

児童発達支援管理責任者
髙木 祥子

【プロフィール】
出産をきっかけに発達障害児支援に関心を持ち、放課後等デイサービス勤務を経て児発管資格を取得。学びを深めながら、子どもたち一人ひとりの成長に寄り添う支援を大切にしています。

【保有資格】
児童発達支援管理責任者、サービス管理責任者、強度行動障害者支援者、言語認知発達支援士、PECS Level.1、児童発達支援士、発達障害コミュニケーション初級指導者、子ども発達障がい支援アドバイザー、子ども発達障害対応スペシャリスト

一般社団法人 人間力認定協会 事務局長 望月宏彰

この記事の監修

一般社団法人 人間力認定協会
監修責任者:事務局長 望月宏彰

当協会は、延べ5万人が学ぶ「児童発達支援士」等の資格認定をはじめ、専門家による調査報告書の提供、講演会、絵画コンクールの開催など、発達支援の普及と向上に向けた多角的な活動を行う専門機関です。「日本の資格・検定」アワードにおいて、2022年に「児童発達支援士」、2026年に「メンタルヘルス支援士」が受賞しており、業界から高い評価をいただいています。 本コラムは、協会の支援方針および倫理規定に基づき、正確な情報発信であるかを監修・確認しています。

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