公立と民間どちらが良い?両方の療育現場を経験した児発管が語る「それぞれのリアル」と役割の違い

私はもともと、幼稚園教諭として子どもたちと関わることからキャリアをスタートしました。新卒だった当時の私は、目の前の毎日をこなすだけでいっぱいいっぱい。その中で、発達の特性がある子どもたちへの関わりに深く悩みながらも、心に余裕がなく、十分な支援ができないことが多くありました。

幼稚園には、集団の中でうまく馴染めない子、感覚の敏感さから活動を拒否してしまう子、言葉がうまく出てこない子など、さまざまな特性を持つ子どもたちがいます。そんな子どもたちと向き合う中で、「どうすればこの子たちが安心して過ごせるのだろう」と考え続けたことが、「もっと専門的に学びたい」という強い想いへとつながり、療育の世界へ踏み出すきっかけとなりました。

その後、公務員保育士として公立の通園施設や支援センターでの療育に携わり、現在は自ら民間の児童発達支援・放課後等デイサービスを立ち上げて運営しています。公立と民間、双方の療育の最前線を経験してきたからこそ見えてきた「それぞれのリアルな姿」について、現場の視点からお届けします。

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この記事でわかること

  • 公立の療育現場が持つ「多職種連携の厚み」と「行政機関との密な継続性」の強み
  • 公立特有の「決裁スピードの遅さ」や「定期異動による上司の理解不足」というリアルな葛藤
  • 民間事業所の立ち上げで実感する「高い自由度」と「経営者としての重い責任」の表裏一体
  • 利用者が「自ら選んで通う」民間だからこそ深まる、一歩踏み込んだ家族支援のあり方
  • 公立(福祉の土台)と民間(オーダーメイドの支援)が地域で果たすべき役割の補完関係

多職種連携と制度の壁|公立の療育現場で感じた「強み」と「葛藤」

多職種連携と制度の壁|公立の療育現場で感じた「強み」と「葛藤」

公立の通園施設や支援センターに勤務して、まず圧倒されたのは「チームの厚さ」でした。医師、看護師、心理士、各種訓練士(ST・OT・PT)、そして保育士など、多彩な専門職が同じ屋根の下にいる環境は、一人の子どもを多角的な視点から見つめる上で非常に心強いものでした。

カンファレンスで各専門職の視点が交わる時間は、私を専門家として育ててくれた大きな学びの場です。例えば、私が「切り替えが難しい子」と捉えていたお子さんに対し、他の専門職から「背景に感覚調整の難しさがあるのでは」という視点をもらい、支援の方向性がガラリと変わったこともありました。

また、健康増進課や子育て支援課、学校教育課などと密に連携し、長期にわたって子どもの発達の経過を追いながら引継ぎができる「継続性」も公立ならではの大きな強みであり、保護者の安心感に深くつながっていました。

しかし一方で、組織ならではの「動きにくさ」に葛藤することもありました。公費で運営されている以上仕方がないのですが、例えば「今のこの子にこのスプーンが必要だ」と気付いても、見積もりを3社から取り、主任、課長、部長、財政課へといくつもの決裁を回さなければならず、購入までに半年以上かかることもありました。その頃には子どもの状態が変わっていることもあり、支援の質を上げたい気持ちと組織の仕組みとの間で歯がゆさを感じていました。

さらに、行政の定期異動の仕組みにより、前日まで税金の処理をしていた事務職の方がいきなり施設長(上司)として赴任してくるという現実もありました。現場や発達障害への理解が不足している上司から「親の育て方の問題では?」と言われた時は大きなショックを受けましたが、こうした経験があったからこそ、「自分が理想とする支援の場を自らの手で作るんだ」という強い決意が芽生えたのです。

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児童福祉における「公的機関」と「民間事業所」の構造的な違い

ここで、日本の児童福祉制度における「公立(公的機関)」と「民間事業所」がどのような役割分担のもとに成り立っているのか、一般的な知識と背景について整理しておきます。

平成24(2012)年の児童福祉法改正に伴い、児童発達支援や放課後等デイサービスなどの制度が再編され、民間企業の参入が促されたことで、現在の療育インフラは急拡大しました。この背景には、公的なリソースだけでは対応しきれなくなった多様なニーズに対し、民間の活力を導入するという国の方針があります。

国や自治体が運営、または深く関与する「公立」の施設(児童発達支援センターなど)は、地域における「福祉のセーフティネット(土台)」としての役割を担っています。措置や行政の紹介によって利用が決まることが多く、経済的な課題や家庭環境の困難さを抱えるケースも含め、あらゆる子どもを受け入れる強固な体制が整っています。また、医療的ケアが必要な重症心身障害児への対応など、採算性を度外視した「地域に絶対になくてはならない基盤」を維持することが公立の使命です。

一方で、現在その数が大幅に増えている「民間」の事業所は、「多様性と専門特化(選択肢の拡大)」を担っています。民間はそれぞれ、「運動療育(感覚統合)」「学習支援」「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」「モンテッソーリ教育の導入」など、独自の強みやカラーを打ち出して運営しています。

これにより保護者は、「うちの子のこの特性を伸ばしたい」「このプログラムを受けさせたい」と、子どものニーズに合わせて事業所を主体的に選択(契約)できるようになりました。公立が地域全体の療育の「基準(スタンダード)」や「地域連携のハブ」を作る存在であるならば、民間はその上で一人ひとりの生活に合わせた「オーダーメイドの支援」を素早く提供する役割を持っていると言えます。

公立と民間、それぞれの療育現場で感じやすかった特徴

現場ごとの特徴強み・感じやすかったこと
公立の療育現場多職種連携や行政との継続的な支援体制が整いやすい
公立特有の課題決裁や異動など制度上の動きにくさが生じやすい
民間の療育現場子どもに合わせた柔軟な支援や専門特化がしやすい
民間特有の課題経営・人材育成・保護者対応など責任が大きい
共通して重要だったこと「学び続ける姿勢」が支援の質につながっていた

自由度と責任の重さ|民間の施設を立ち上げて気づいた「家族支援の深さ」

こうした背景の中、自ら民間事業所を立ち上げて最初に実感したのは、「自由度の高さ」と「責任の重さ」が完全に表裏一体であるということでした。

公立時代に「やりたいけれど制度の壁でできなかった」プログラムや環境設定を、自分の判断で即座に形にできるのは大きなやりがいです。必要な備品やスプーンも、必要とあれば次の日には購入して現場に投入できます。このスピード感は、支援者として非常に働きがいを感じる部分です。

しかし同時に、支援の質だけを考えていればよかった公立時代とは異なり、経営、人材育成、保護者対応、膨大な行政手続きなどをすべて一人で背負わなければなりません。「児発管として目の前の子どもの支援を考える自分」と「事業所を維持していく経営者としての自分」の間で、常に頭を切り替える必要があり、立ち上げ当初は心身ともに激しく消耗しました。それでも、子どもたちの笑顔や「ここに来て本当によかった」という保護者の言葉に何度も救われ、乗り越えてくることができました。

また、民間に来て特に深まったと感じるのが「家族支援(保護者支援)」の視点です。民間では、保護者の方が数ある事業所の中から「私たちの意思でここを選んだ」という背景があるため、支援者と保護者が“共に子育てを考えるパートナー”として、より近い距離で深く向き合うことになります。

子どもへの直接的なアプローチだけでなく、お母さんやお父さんの不安に寄り添い、家族全体を支えるシェルターのような場所であること。それこそが、民間の事業所に求められる最も大切な役割だと実感しています。

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両方を経験したからこそ思うこと|どちらが良いかではなく「役割の補完関係」

公立と民間、どちらが良いかという二者択一の議論には意味がありません。それぞれに明確な「役割」と「存在意義」があるからです。

公立は、制度的な安定と多職種連携によって地域全体の支援の「土台」を築く場所。民間は、柔軟性と独自の専門性を生かして、個々のニーズに応じた「オーダーメイドの支援」を提供する場所です。子どもやご家族にとってはどちらも大切なリソースであり、地域のなかで双方が機能し合わなければ、支援の輪は薄くなってしまいます。

私自身、公立時代に培った緻密なアセスメントの視点や多職種連携の経験がなければ、今の民間での実践は全く違うものになっていたはずです。過去の葛藤も含めたすべての経験が、現在の私の支援の大きな基盤(引き出し)となっています。

そして、どちらの現場に身を置いていても共通して感じるのは、「支援者自身が学び続けること」の重要性です。働く環境や制度が変わっても、子どもの特性や発達への理解を深めようとする真摯な姿勢こそが、支援の質を保つ根本にあります。現場の垣根を越えて、学び続ける支援者同士が情報を共有し、つながり合っていくことが、地域全体の支援力を底上げしていくのだと確信しています。

Q&A|よくある質問

Q1. 保護者として施設を選ぶ際、公立と民間のどちらを優先すべきでしょうか?

A. お子さんの現在の発達段階や、ご家庭が求める「支援の目的」に合わせて検討することをおすすめします。 まだ診断が出たばかりで、医療やリハビリ(PT・OT・STなど)を含めた総合的な評価や長期的な見通しを必要とする場合は、専門職が揃う公立(センター等)が心強い土台となります。一方で、「集中的に運動療育を受けさせたい」「少人数でSSTを学びたい」など、具体的な目的や個別の柔軟な対応を求める場合は、その分野に特化した民間事業所が大きな力になってくれます。

Q2. 民間の事業所で働く場合、公立のような多職種連携の視点を持つにはどうすればよいですか?

A. 地域の専門機関(相談支援事業所や学校、公立のセンター)と積極的に情報交換を行い、外部の研修に足を運ぶことが大切です。 民間は自所のスタッフだけで支援が完結しがちですが、児発管がハブとなり、お子さんが利用している他の機関や学校での様子をヒアリングすることで、公立に負けない多角的なアセスメント(見立て)を行うことが可能になります。

Q3. 行政から民間へ異動、または転職した際に、最もギャップを感じやすいポイントはどこですか?

A. 「スピード感」と「経営(稼働率など)への意識」の2点です。 公立では慎重な手続きが求められますが、民間では「目の前の子どものために今すぐ動く」スピードが重視されます。また、民間はボランティアではないため、質の高い支援を維持し続けるための「適切な事業運営(経営感覚)」が求められる点に、最初は戸惑う方が多いようです。

まとめ|公立と民間どちらが良い?両方の療育現場を経験した児発管が語る

公立であっても民間であっても、目の前の子どもとご家族にどこまで誠実に向き合えるか、その姿勢そのものが支援の質を形作ります。場所や制度は違えど、「その子らしさ」を大切にしたいという想いの根底は同じはずです。

自分のいる場所でできることを丁寧に積み重ねながら、時には他の現場の視点を取り入れてみる。「どちらが正解か」ではなく、お互いの良いところを認め合い、取り入れ合えるような柔らかな地域支援のネットワークが理想です。

私自身、まだまだ学びの途中にあります。しかし、公立と民間という異なる2つの療育現場を歩んできた経験は、今の私の揺るぎない「支援の軸」となっています。これからも自分が歩んできた道のりを大切にしながら、目の前の子どもたちの明るい未来を支える支援を作り上げていきたいと思います。

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西田沙世

執筆者

児童発達支援管理責任者
西田 沙世

【プロフィール】
幼稚園教諭から療育の世界へ踏み出し、公立の通園施設・支援センターで発達支援の経験を積みました。「すべての子どもにその子に合った支援を」という思いのもと、民間の児童発達支援・放課後等デイサービス「こども遊育プレイス ぱれっと」を設立。遊びを通じて子どもの力を引き出す支援を日々実践しています。

【保有資格】
児童発達支援管理責任者、保育士、幼稚園教諭免許、臨床発達心理士、感覚統合認定士、児童発達支援士、発達障害コミュニケーションサポーター、SSTスペシャリスト、メンタルヘルス支援士、自閉症スペクトラム支援士

一般社団法人 人間力認定協会 事務局長 望月宏彰

この記事の監修

一般社団法人 人間力認定協会
監修責任者:事務局長 望月宏彰

当協会は、延べ5万人が学ぶ「児童発達支援士」等の資格認定をはじめ、専門家による調査報告書の提供、講演会、絵画コンクールの開催など、発達支援の普及と向上に向けた多角的な活動を行う専門機関です。「日本の資格・検定」アワードにおいて、2022年に「児童発達支援士」、2026年に「メンタルヘルス支援士」が受賞しており、業界から高い評価をいただいています。 本コラムは、協会の支援方針および倫理規定に基づき、正確な情報発信であるかを監修・確認しています。

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