「公共施設やスーパーで突然走り回ってしまうので、一瞬も目が離せない」
「園の参観日などで他のお子さんと比べたとき、我が子だけどうしてあんなに落ち着きがないのだろう」
「この落ち着きのなさは、本人の生まれ持った性格なのか、それとも何か発達の特性(障害)によるものなのか……」
日々お子さんと向き合う中で、このような不安や悩みを抱えている保護者の方は決して少なくありません。
家庭内の一対一の環境では見えにくかった行動も、幼稚園や保育園という「集団生活」の場に入ることで、初めて周囲との違いとして浮き彫りになり、心配が大きくなるケースも多々あります。
今回は、9年間にわたり現場で多くの子どもたちを見守ってきた元幼稚園教諭の視点から、「落ち着きがない」と思われる背景にある具体的な要因や、園生活の中で見えてくる困りごとの例、そして家庭で今日から実践できるあたたかい関わり方のポイントについて分かりやすく解説します。
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目次
この記事でわかること
- 「落ち着きがない」の背景にある3つの要因(個性・発達の未熟さ・心理的サイン)
- 3歳頃の幼児に多く見られる「感覚統合」の未熟さと脳の発達段階
- 園生活の現場で直面しやすい4つの困りごと(姿勢の崩れ・別行動・刺激への反応など)
- 家庭で楽しく「体幹」を育て、エネルギーを発散させる具体的な遊び
- 言葉の壁を補い、子どもの自立を促すイラスト(視覚的)を用いた支援法
- 発達特性(ADHD・ASD)の基礎知識と、専門機関へ相談する際の大切な手順
我が子の「落ち着きのなさ」を生み出している3つの要因

保護者にとって、我が子の行動が周囲と違って見えることは非常に焦りや不安を生むものです。しかし、「落ち着きがない」という目に見える現象の裏には、大きく分けて以下の3つの異なる要因が隠れています。まずは我が子がどれに当てはまりそうかを客観的に見つめてみましょう。
① 個性(生まれ持った気質)
人間には誰しも生まれ持った気質や個性があります。物静かでじっと探求することが好きな子もいれば、好奇心が旺盛で活発に動き回ることが大好きな子もいます。みんな個性が違うのは当たり前のことです。
他人に大きな迷惑をかけることがなく、子ども自身も日常生活で深く困っていない様子であれば、焦らずに「この子の活発なエネルギー」として成長をあたたかく見守り、様子を見ていく形で問題ありません。年齢を重ねるにつれて、自然とコントロールできるようになることも多くあります。
② 発達の未熟さ(脳や感覚統合の途上)
幼児期の落ち着きのなさは、「脳や感覚統合の発達がまだ未熟であること」と非常に深い関係があります。 人間の脳には、身体のさまざまな感覚器官から入ってくる複数の刺激を、脳内で分類・整理して正しくまとめる「感覚統合(かんかくとうごう)」という機能が備わっています。
- 感覚: 日常生活の中で、光・音・匂いなどの刺激を身体で感じる働き
- 統合: 入ってきた無数の感覚を脳が交通整理し、状況に合わせて行動をコントロールする働き
- 前庭覚(ぜんていかく): 耳の奥(内耳)にあり、空間の認知や身体のバランス、スピードを感じる感覚
- 固有受容覚(こゆうじゅようかく): 自分の身体の各部の位置、筋肉の動き、力の入れ具合を感じる感覚
特に3歳頃の幼児は、この感覚統合の発達がまだ発展途上です。そのため、先生の話を聞いている場面であっても、横でお友達が少し動いただけで「視覚」が刺激され、衝動的にそちらを向いてしまったり、周囲の雑音が気になってソワソワしてしまったりします。
これは大人の言うことが理解できていないのではなく、「脳の神経ネットワークが成長段階にあるため、入ってくる刺激を脳内で上手く処理しきれず、結果として落ち着きがないように見えている」という状態なのです。文部科学省や厚生労働省のデータが示す通り、脳の重さは4〜5歳で大人の約90%に達し、年齢(4歳、5歳)とともに神経細胞のネットワークが密になることで、衝動性は自然と落ち着いていくケースが多く見られます。
③ 大人の気を引きたいという心理的サイン
「構ってほしい」「自分だけを見てほしい」という強い心理から、わざと大人の目が向くような派手な行動をとったり、落ち着きなく悪さをしたりするケースもあります。
典型的な例として、下に弟や妹が生まれたタイミング(赤ちゃん返り)などが挙げられます。両親の意識がどうしても赤ちゃんに向いてしまうため、上の子は「言葉で上手く寂しさを伝えられない代わりに、わざと親を怒らせるような行動をとって自分の存在をアピールする」という手段をとるのです。
この場合、原因は心理的な満たされなさにありますので、少しの時間でも「上の子と親の2人きりの時間」を作り、赤ちゃんのいない部屋で膝の上に抱っこして絵本を読むなど、愛情を100%注ぐ環境を作ることで、驚くほど心が安定し、落ち着きを取り戻していく傾向があります。
家庭では見えにくい、園生活の集団行動だからこそ見えてくる4つの困りごと
家庭では親御さんと一対一、あるいは少人数で過ごすため目立たなかった行動も、園という「約束事やルールのある集団生活」に入ると、困りごととして表面化しやすくなります。私が幼稚園教諭の現場で「落ち着きがない」と感じた代表的な行動は以下の4つです。
① じっと座っていられない(姿勢の崩れ)
食事中や、椅子に座って粘土や工作をする場面で、すぐにクネクネしてしまったり、姿勢が崩れて椅子から滑り落ちそうになったりする姿です。
これは一見、集中力がないように見えますが、実は「体幹(身体を支える筋力やバランス力)」の育ちが未熟であることが大きな要因です。「座る気がない」のではなく、「座り続けるための身体の土台がまだ維持できない状態」と言えます。体幹の弱さは、普段の遊び(片足立ち、フラミンゴごっこ、全身を使った雑巾がけなど)を通して、楽しみながら自然と鍛えていくことができます。
② 集団行動のときに一人だけ別行動をとってしまう
みんなで一列に並んで移動するときや、一つの活動に集まって取り組むべき場面で、ふらふらと別の場所へ行ってしまう行動です。
保育所保育指針の「子どもの発達段階」に照らし合わせると、3歳児はまだ個人での『平行遊び』が中心であり、ルールを守って集団で遊ぶことが難しい年齢です。そのため、3歳頃まではこれが性格なのか特性なのかの判断は非常に難しいと言えます。しかし、4歳児・5歳児になり、周囲の気持ちを察したり、友達と役割分担をしながら集団行動を協力して楽しめる年齢になっても、一人だけ全く別行動をとってしまい集団への参加が著しく困難な場合は、単なる性格の問題として片付けるのが難しいケースもあります。
③ 光や音などの特定の刺激でそわそわしてしまう
五感への刺激に対して極端に過敏に反応してしまい、感覚の交通整理(感覚統合)がうまくいかずにパニックやそわそわ感に繋がってしまう困りごとです。
例えば、「音楽遊びで使う大太鼓や小太鼓の音が頭に響いて耐えられず、激しく耳を塞いで嫌がる」「衣服の首元にあるタグのチクチク感が気になって仕方がなく、活動に集中できない」といった具体的なサインとして現れます。年齢が上がってもこうした特定の過敏さが残る場合、発達特性の可能性が考慮されることがあります。
④ 友達との関わりの中で、言葉の前に手が出てしまう
おもちゃの貸し借りやトラブルの際、嫌だという気持ちを「言葉」で伝えることができず、衝動的に手が出てしまう(叩く、押すなど)困りごとです。
まだ言葉が十分に豊かでない低い年齢であれば珍しくありませんが、4歳児・5歳児になり、自分の気持ちを言葉で表現し我慢を経験する力を備えるべき年齢になっても、嫌なことがあると即座に手が先に出てしまう衝動性が続く場合は、落ち着きのなさや性格という枠組みを超えた専門的なサポートが必要なサインと言えます。
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実践|「落ち着きがない」お子さんへの家庭での3つのアプローチ
園や家庭での「落ち着きのなさ」が気になったとき、頭ごなしに「静かにしなさい!」「どうしてじっとできないの!」と叱り続けても、根本的な解決にはならず、子どもの自己肯定感を傷つけてしまいます。関わり方を少し工夫するだけで、子どもは劇的に落ち着きやすくなります。
① 身体を思い切り動かして「エネルギーを発散」させる
身体の中に溜まっているストレスやあり余る活動エネルギーを、安全な場所で意図的に発散させてあげるアプローチです。外を思い切り走り回ることはもちろん、家庭用トランポリンでのジャンプ遊びは非常におすすめです。
トランポリンは上下の規則的な揺れによって脳に心地よい刺激を与えるだけでなく、空中での姿勢維持を通じて「体幹」や「前庭覚・固有受容覚」を効果的に養うことができる優れた運動療育遊びです。楽しく飛び跳ねてエネルギーを発散させることで、その後の室内活動でじっと座りやすくなる効果が期待できます。
② 言葉だけでなく「絵やイラスト(視覚的)」で伝える
耳から入る言葉の指示だけを記憶して行動することが苦手なお子さんには、目から入る情報(視覚的支援)が極めて有効です。
例えば、朝の身支度が進まずソワソワしてしまう場合は、「①トイレに行く → ②顔を洗う → ③服を着替える → ④カバンを持つ」という一連の流れを順序立ててイラストや写真カードにして壁に貼っておきます。子どもは次に見るべき行動が視覚的に理解できるため、大声で「早くしなさい!」と言われなくても、自分で見通しを持ってスムーズに行動できるようになります。また、「静かにする場所」では口頭で注意し続けるよりも、口元に指を当てたイラストをピッと見せる方が、子どもは衝動を抑えて理解しやすい傾向があります。
③ 適切なステップを踏んで「専門家に相談」する
年齢が上がっても「常に落ち着きがない」「園生活や日常生活に明らかな支障が出ている」という場合は、以下のような発達特性(発達障害)の可能性も視野に入れ、適切なサポート環境を整えてあげることが大切です。
- ADHD(注意欠陥多動性障害):
「不注意(気が散りやすく集中が続かない)」「多動性(じっと座っていられず歩き回る)」「衝動的(考えるより先に身体が動く)」の3つの特性を特徴とする先天的脳機能の特性。 - ASD(自閉スペクトラム症):
「対人関係や言葉の理解、相手の気持ちを読み取ることが苦手」「強いこだわりを持ち、毎日のルーティンや手順の急な変更にストレスを感じやすい」「感覚が極端に敏感、あるいは鈍感」という特徴を持つ先天的脳機能の特性。
相談を検討する際は、いきなり外部の病院に駆け込むのではなく、まずは毎日のお子さんの集団での姿を一番よく知っている「園の先生」に相談することをおすすめします。
園での具体的な様子や困りごとの頻度を聞き、担任の先生と「園と家庭で一貫した同じ関わり方(共通のルールの提示など)」を実践してみましょう。その上で、必要に応じて園の先生としっかりお話をした状態(園からの情報提供書や日々の様子のメモを持参できる状態)で専門機関へ相談に行くのが、最もスムーズで我が子に合った的確な支援に繋がる近道です。
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違いをひと目で比較|幼児期の「落ち着きのなさ」における年齢別の発達目安
幼児期の発達スピードは目を見張るものがあります。子どもの行動が「年齢相応の未熟さ」なのか「特性を考慮すべき段階」なのかを分かりやすくテーブルにまとめました。
| 年齢 | 年齢相応の発達の特徴(未熟さの範囲) | 注意深く見守り・相談を検討したいサイン |
| 3歳児頃 | 感覚統合が未熟なため、周囲の刺激(音や友達の動き)にすぐ反応してソワソワする。ルールを守る集団遊びより一人での平行遊びが主流。 | 呼んでも全く目が合わない、制止の声をかけても一切耳に入らず危険な場所へ突っ込んでしまう。 |
| 4歳児〜5歳児頃 | 脳の神経ネットワークの発達が進み、少しずつ自分の気持ちを抑えたり、お友達の気持ちを考えて役割を交代できるようになる。 | 4歳以降も椅子に1分も座っていられない、感情の折り合いがつかずお友達を言葉より先に反射的に叩いてしまうことが日常化している。 |
まとめ|幼稚園・保育園の集団生活で見えてくる原因とあたたかい関わり方
我が子の「落ち着きのなさ」を前にすると、親としてはつい焦って周りと比べてしまいがちですが、脳がダイナミックに発達の途中段階にある幼児期において、白黒はっきりと判断することはプロであっても難しいことがよくあります。
大切なのは、今目に見えている行動を叱り飛ばすことではなく、「どうしてこの子は今、落ち着かなくなっているのだろう?」とその行動の背景にある理由(感覚の過敏さ、体幹の弱さ、甘えたい気持ちなど)をあたたかく見守り、理解しようとする姿勢です。
落ち着かない原因が個性なのか、発達のグラデーションなのかが見えてくれば、焦らずにイラストカードを用意したり、トランポリンで発散させたりと、その子にぴったりの環境を優しく整えてあげることができます。そして、日常の小さな「できた!」の瞬間をその都度たくさん褒め、認めてあげることで、子どもの心に成功体験が積み重なっていきます。
「我が家は、どんな自分であっても100%安心できる安全基地なんだ」とお子さんが心から信じられるよう、たっぷりと愛情を注ぎ、信頼できる園の先生方と手を取り合いながら、その子らしい豊かな成長をあたたかく伴走していきましょう。
Q&A|よくある質問
Q1. 園の先生から「集団活動の時に別行動をとることが多い」と言われました。家では大人しくテレビを見たりパズルをしたりしているので信じられないのですが、園と家庭でこれほど姿が変わる原因は何でしょうか?
A. 「一対一の安心できる静かな家庭環境」と、「たくさんの子どもたちが発する光や音が飛び交う刺激の多い園環境」という、空間にかかる負荷の決定的な違いが要因です。
コラム内にある「感覚統合の未熟さ」の視点から考えると、お家では静かで予測がつく環境のため、入ってくる刺激を脳がスムーズに処理でき、自分の好きなテレビやパズルに深く集中して落ち着いて過ごせています。しかし、一歩園の集団生活に入ると、お友達の話し声、おもちゃがぶつかる音、視界を遮る様々な色彩など、脳にダイレクトに流れ込む感覚刺激が何倍にも膨れ上がります。発達途上のお子さんにとって、この大量の刺激を処理しながら「みんなと同じ行動を合わせる」ことは非常にエネルギーが必要なため、脳がパニック(キャパシティオーバー)を起こし、刺激から逃れるためにふらふらと別行動をとってしまっている可能性が考えられます。決して家庭での育て方が悪いわけでも、園での態度が悪いわけでもありません。
Q2. 体幹が弱くじっと座っていられない息子に、家庭で「片足立ち」や「フラミンゴごっこ」をさせようとしても、すぐに飽きてやめてしまいます。楽しく続けさせるコツはありますか?
A. 訓練のように「さあ、体幹を鍛えるためにやろう!」と誘うのではなく、親御さんが全力で楽しむ「ごっこ遊び」や「競争」の要素を盛り込んで、短い時間で『楽しい成功体験』にしてしまうのがコツです。
例えば、「どっちが長い時間フラミンゴ(片足立ち)でいられるか、ママと勝負ね!負けないぞ〜!」とゲーム仕立てにしたり、秒数を「1、2、3……」と数えて、昨日より1秒でも長くできたら「すごーい!足の筋肉がパワーアップしてる!」と大げさに褒めてカレンダーにシールを貼るなどの工夫が効果的です。また、全身を使う「雑巾がけ」であれば、「どっちが早くリビングの端まで雑巾レースで荷物を運べるか競争!」といったエンタメ要素を入れると、子どもは遊び感覚で夢中になります。ほんの数秒・数分でも、笑顔で「できた!」と認められる体験を重ねることで、遊びながら自然と姿勢を保持する筋力(土台)が育まれていきます。
Q3. 「大人の気を引きたいサイン」でわざと怒られるような悪さをする場合、上の子を優先すべきなのは分かっているのですが、下の子の夜泣きや授乳で親も心身ともに限界です。短い時間で上の子の心を効率よく満たす、おすすめの具体的な方法はありますか?
A. 時間の「長さ(量)」ではなく、お母さんやお父さんを完全に独占できているという「密度の濃さ(質)」を意識し、1日わずか5分でも『上の子だけの特別タイム』を作ってみてください。
育児に追われる中で「まとまった2人の時間」を作るのは物理的に不可能ですし、親御さんが倒れてしまっては元も子もありません。おすすめなのは、下の子が少し寝静まったタイミングやパパが抱っこしている間の「たった5分間」だけ、上の子をギュッと強く抱きしめて「あなたが世界で一番大好きだよ。いつもお兄ちゃん(お姉ちゃん)を頑張ってくれて本当にありがとう」と言葉とスキンシップで100%の愛情をストレートに伝えることです。
また、下の子のお世話(オムツを持ってきてもらうなど)を上の子に優しく手伝ってもらい、「さすが〇〇ちゃん!ママ本当に助かっちゃった!」と、お世話の対象ではなく『一緒に赤ちゃんを育てる頼もしいパートナー』として役割を与えて褒めることも、プライドを刺激し自己肯定感を高め、心を急速に安定させる非常に有効なアプローチとなります。
【注意事項】
本記事は、児童発達支援管理責任者、心理カウンセラー、言語聴覚士をはじめとする専門家個人の知見や経験、学術的背景に基づいて執筆・監修されたものです。子どもの特性や発達の状況、支援との相性には大きな個人差があり、すべての子どもに同様の効果や変化を保証するものではありません。また、本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の診断や医療行為、個別の療育指導に代わるものではありません。実際に支援方法や対応を判断される際は、必要に応じてお子様を普段から知る主治医や専門家、支援機関などにご相談の上、ご自身の判断のもとで参考情報としてご活用いただきますようお願いいたします。



